第34話
「ただいま!」
「…え!た、タオル持ってくるから!?なっ、な、なんでこんなに濡れてるの?」
詩音の家に戻ってきた。
傘は差していたけど、全身しっかり濡れていた。
せっかく浴衣に着替えたのに、シャワーを借りて、元のTシャツ姿に戻った。
シャワーを浴び終わり、詩音の部屋に戻る。
扉を開けると、私は身動きの取れない状態になった。
その理由は、扉を開けるなり詩音に抱きつかれたからだ。
私はシャワーを浴びる前に、手に持っていたビニール袋を手渡し、中身を開けておくよう頼んだ。
詩音の頭の横から少し部屋を覗くと、テーブルに、しっかりとそれが置いてあった。
「サプライズ、成功した?」
「…うっ、う」
「え!?なんで泣くの!?」
詩音は泣きながら、私を抱く腕の力を強める。
私が買ってきた物は、コンビニに売っているものだ。日常的に何時でも買えるもの。
だけど選んだ物は、花火大会の屋台にありそうなもの。
焼きそば、お好み焼き、からあげ、フライドポテト、わたがし、あとラムネも。
正直2人で食べ切れる量ではないと思う。
でもそんなことよりも、花火大会には行けなかったけど、夏の思い出として詩音が笑顔になってほしかった。
忘れられない思い出に、してほしかった。
悲しい思い出に、したくなかった。
「嬉しい。ありがとう。」
「詩音が嬉しいなら、私も嬉しいよ。」
「でも、1つ。」
「何?」
さっきまで泣いていたのが嘘みたいに(目はまだ涙目だけど)、私を睨みつけるように目を細めて、下からこちらを見上げる。
「百合の浴衣姿、写真に収めてなかった!」
「え、」
"そんなこと"と言おうとしたけど、また怒らせるのが嫌で、その言葉が出かけたところを思いっきり引っ込めた。
「スマホのロック画面にしようと思ってたの
に…」
「待って。それは恥ずかしいからさすがにやめて。」
いくら好き同士といっても、世の中のカップルはそういうことをするのか、と脳内に疑問が浮かぶ。
そして、何よりそんなことされたら私が恥ずかしい!
「ほ、ほら、温かいの冷めちゃうから、ね?さぁー食べよー」
「あぁ!もぉ!…お皿持ってくる!」
そう言ってどこの誰よりも可愛い浴衣姿の詩音がキッチンへと行った。
(寧ろ、私が写真に収めたい。)
そういえば、2人で写真を撮ったことがなかった。
誰かと写真を撮るなんて、学校の集合写真くらいだ。
詩音が戻ってきたら、写真、お願いしてみようかな。
「持ってきたよ!」
「ありがとう」
写真、なんて切り出そうかな。
とりあえずスマホを開く。
カメラのアイコンを探す。
普段使わないから見えやすいところに配置されていない。
「百合」
「えっ」
「はい!笑って」
「あっ」
カシャッ
ひらひらと浴衣の袖を靡かせながら、詩音の腕が伸び、私とカメラレンズの目が合う。
初めて2人で撮った写真は、不意打ちで取られたためロック画面には絶対に出来ない写真だった。
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