第4話

なんとなく眠りが浅かった気がするがなんとか起きれた。

今日から私は高校生だ。


まだ全然痛む左手首に目線を向ける。

…骨折でも適当に言っておけば大丈夫か。


自分の感情とは裏腹に、真新しい制服は輝いて見える。

新生活への希望に満ちているような。


真新しい制服に袖を通す。

特に代わり映えのない普通のブレザーだ。

王道の赤いリボン。普通だ。


今日は入学式のみだからお昼ご飯はいらない。

昨日は料理なんてする気分にならなかったから良かった。



…もしかしたら、



不覚にもまたあの子に会えるのではないかと思ってしまった。

年は同じくらいだった様な気がする。

だとしても高校なんて周りにもかなり数があるし、万が一同じ高校だとしても出会う確率なんてかなり低いだろう。


何を期待しているんだろう。

疫病神は大人しくしてればいいんだ。



心の中でとなえ、「行ってきます」と言って玄関の扉を開けた。

誰の返事も返ってこない。

当然だ。




また太陽が眩しい。

咄嗟に日陰に隠れる。


「もしかして、黒森さん?」


見覚えのある顔。



「あ、村主さん!」

「…よかったっ、覚えててくれてたんだね」


県内随一の進学校へ私は入学する。

この目の前の、綺麗な茶髪を、綺麗に編み込んだいかにも優等生らしいこの子は、中学の同級生の村主ひなのだ。

特別親しくしていた訳では無い。

3年の時だけクラスが一緒で、それ以外は接点がない。


というよりも、ただ私が他人との壁を作っていただけだ。

誰にも迷惑をかけないように、ひたすらそんなことを思っていた。



「うちの中学からは、私と黒森さんだけかな?」


どちらからということも無く、向かう方向が一緒のため並んで歩く。


「分からないけど、今年倍率高かったみたいだし…」

「そっか…」

「佐々木さんとか、鈴木さんとかは?」


村主さんは優等生だけど、友達が多かった印象だった。

私の問いに村主さんは首を横に振って言う。



「2人とも別の高校だよ。ここは受けようともしなかったし」

「そうなんだ。」



確かに仲は良かったかもしれないけど、仲が良いからといって学業成績までは同じにはならないらしい。


「ねぇ、黒森さん。」

「何?」


村主さんはスマホのメッセージアプリを開いてQRコードを見せてきた。


「良かったら、追加、してくれないかな?」


実はアカウント登録はしてあるけど、友達は中学の卒業式の時になんとなく追加させられた数人くらいしかいない。

そして定期的に連絡をとっている人もいない。



「…いいの?」

「良いに決まってるよ!折角同じ高校なんだから、仲良くしてよ」


優等生っていうイメージだったから、村主さんがこんなに明るい子だとは思わなかった。


私は促されるままにQRコードを自分のスマホで読み込んだ。


「ありがとう。黒森さんと、話してみたかったんだ」


なぜ?と心の中で呟きつつ、今日から通う高校の校舎が見えてきた。



「クラスは……」


私よりも少し背の低い村主さんが、背伸びをして入口に貼られているクラス分けの名簿を見ている。



「…あった。」

「え、え、」

「村主さん、私と同じクラス。」

「本当!?嬉しいなぁ」


背伸びをやめ、村主さんはにっこり微笑む。

優等生なのに人懐っこい。

こういう人は"疫病神"なんて言われることなんてないんだろうなと思った。



「黒森さん、行きましょうか」

「うん。そうだね。」



「あの…」


後ろから声をかけられる。

私と村主さんはその声の方へと振り返る。



「…あっ」

「…あ。」



もう会うこともないと思っていた、私の初めてを奪った女の子が、そこにはいた。

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