第5話

「まさか同じクラスだったなんて」


まさか同じクラスとは。

そして座席も運命的だ。


私の斜め後ろに村主さん、そして私の隣に



「改めまして、白木 詩音です。」

「あの、その…」


私も状況をのみこめていないが、全くの無関係である村主さんはずっと眉間にシワがよっている。


無事に入学式が終わった。

そして今はただただ暇な無意味な時間だ。

早く担任は戻ってこないのか。

進学校らしからぬ、教室中ガヤガヤしていてうるさい。


「白木さんは黒森さんと、お知り合いなの?」


丁寧な言葉遣いで村主さんが尋ねる。


「あぁ、偶然ね。黒森さんが…」

「春休みに体調悪くて、道端で助けてもらったんだ、ね?」


自殺しようとして止められました、挙句の果てにキスしました、なんて親しい人にも言えやしない。

そんな人いないけど。


私は白木さんに目線で訴える。

白木さんは動揺すらせず、ただ淡々と落ち着いて言葉を放つ。


「黒森さんとはそれっきりです。まさか年齢も一緒で同じ高校だなんて、思いませんでした。」


それにしても村主さんも白木さんも言葉遣いが丁寧だ。

そしてどちらもかなり美人だ。


さっきから男子生徒の視線がチラチラとこちらに向いている。

こっちが気が持たなくなりそうだ。



「あ、ごめんなさい。電話が来ちゃって」

「うん、大丈夫だよ」

「先生来たら、適当に何か言ってもらえるかな?」

「了解。まかせて。」


村主さんのスマホが鳴った。

この高校は別にスマホが禁止なんてルールは無いから、休み時間も自由に使って良いらしい。


村主さんが教室を出ていく。


白木さんと目が合う。



「…」

「…」



何か、切り出さないと…

なんとなく気まずい。

出会いはあんな感じだったけど、まともに話していない。


「ちょっ…」


急に肩をグイッと引っ張られ、耳元に白木さんの手が添えられる。

あの時のことが脳裏をよぎる。


教室だ。

何を勘繰られるか分からない。

私が抵抗したらあっさり離してくれそうなくらいの手の力なのに、耳元に白木さんの息が感じられて、なんとなく力が入りにくい。



「ねぇ、あれって、まだ、有効?」

「あれ…?」


とぼけた振りをしたけれど、何のことを言っているのか、分かっている。



「私の恋人に、なって、くれるん、だよ…ね?」



耳元で囁き、白木さんは私からスっと離れる。


小っ恥ずかしいことを言ったのに、白木さんは至って平然な顔をしてる。



「ふふっ」

「…っな、何?」

「黒森さんは、一見クールに見えて、恥ずかしがり屋なところが可愛いなと思って。」


確かにクールというか、愛想が無いとは自覚しているけど。

改めて言葉に表すとより一層恥ずかしさが増す。


「あ、のさ。」

「ん?」


白木さんは少し首を傾げた。

こんなに美人なのにわざわざこんな疫病神な私と恋人になりたいなんて思ったんだろうか。


「何で、私と……」


「黒森さん、白木さん、お待たせ」


私が問いかけようとした時、タイミング良く村主さんが戻ってきた。

なんとなく安堵している自分と、白木さんに追求したい自分がいるが、ここは自制した。



「そういえば…」


村主さんの視線が私の左手首に向けられる。


「黒森さん、怪我したの?」

「…あぁ、転んだ時に、やっちゃって」

「痛そう、大丈夫?」

「全然何ともないよ」


全然痛い。

何かを勘ぐられるのも嫌だし、勘づかれたとして可哀想な人みたいな扱いをされるのも嫌だ。


白木さんは何を考えているか分からない。

至って平然を保った顔をしていて、私の脳内の混乱と交換して欲しいくらいだ。



「席に着いてー」



担任が教室に入ってきた。

私たちは前を向き直す。


私は必死に心拍数を下げるのを意識していた。

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