第39話

『せっかく百合も放課後参加してたのに、待っててくれれば、一緒に帰れたのになぁ.....』


今日の電話越しの詩音は不貞腐れた様子だ。

あの後、買い出しが終わってから順調に今日の分までの作業が進んだ。

私は家庭科室には行かず、その後すぐに帰った。そして昼寝というにはよく分からない時間に眠っていたら、詩音からの着信で目覚めた。


『百合ともっといたかったのに。こんな日なかなかないんだもん。さーみーしーいーっ!!』


駄々をこねるようにいつもより大きな声で話す詩音の声が耳に響く。

私はなぜか若干気分が悪い。

よく分からない。

何でこんなにモヤモヤしているのか。

別に何も悪いことをしていないし、された訳でもない。というか、買い出しにも行ったしクラスの力に少しでも慣れたのではないかと何となく自分に腑に落ちる理由を脳内で自分に言い聞かせる。



『ねーえ!百合?...元気ないの?』


「...別に。」



とりあえずの返答をし、いつもはしない明日の授業の予習のために教科書を読み始めた。

そう、いつもはしない。

でも、今日はそういう気分だ。


なんでこんな態度を取ってしまうんだろう。

教科書の内容なんて入ってこない。

ベッドに寝転がりながら教科書を読んでいるようなことをしていると、手の力が抜けて顔面に教科書が降ってきた。


『なんか音、したよね?大丈夫?』


頭の横に置いていたスマホから心配する詩音の声が聞こえる。


「大丈夫。なんでもない。」

『それなら良いけど。』



...なんか、わかんないけど、限界だ。



「ごめん、電話切る」

『えっ!?まっ』


プツリ。



私は画面の受話器のマークを押した。


一息つくと、着信音が鳴る。

登録されている連絡先なんて...



私は機内モードのボタンを押し、その日の通信を遮断した。



(何やってんだろう...)



ずっとおかしい。

楽しそうな詩音を見てから、おかしい。



苦しい。









次の日。

今日は放課後はバイトだ。

そんなことよりも今、目の前にある玄関扉を開けるのが億劫だ。


わかってる。


あんな一方的な電話の切り方。

私の態度。

全て。


遅刻してはいけないと、いつもより重いような感覚がする玄関扉を開け、学校へと向かった。



こんなに自分の感情を表に出してしまうような人間だったか。


寧ろ、ひたすらに隠してきたはずなのに。



「黒森さん?」


「...秋山さん」



少し歩くと、後ろから声をかけられる。

秋山さんだ。


昨日楽しそうに、詩音と...


こんなことが脳裏に浮かび、私は少し息を吐いた。



「黒森さんもこの辺りに住んでいるのか?」

「あぁ、うん、」



向かう場所は一緒だから、2人並んで道を歩く。

まともに話した、というか関わったという方が正解かもしれないけど、家庭科室で初めて文化祭の試作品を作った時だけだった。


お互いベラベラと話すタイプではないから沈黙が続く。


気まずすぎて視界の隅にあったコンビニに入って時間差で登校しようか、と思った時



「おはよう。珍しい組み合わせね。」




目の前に見覚えのある人が現れる。



こんな日の朝は、少し珍しい組み合わせから始まるらしい。

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