第28話 番外編
空き教室だらけの階に来たと思う。
ここまで校舎の奥まったところに来たのは入学して初めてだった。
かなり探し回ったから、先生も戻ってこないのはおかしいと思っている頃だろう。
クラスに友達なんていない。
真面目でただ教室にいるだけの人が私だ。
誰かとサボるなんてしないタイプの人に見えるだろうし、実際そんな事しない。
怪しまれても仕方がない。
だけど、今は
「村主さん…」
「あっ、なんで…」
出会い頭でぶつかりそうになった相手は村主さんだった。
この先にあるのは立ち入り禁止の屋上行きのハシゴくらいだ。
黒森さんと白井さんの姿がない。
確かにあの二人と教室を出ていったはずだ。
村主さんは涙目で、私と目が合った瞬間、なにかの結界が崩れたみたいにボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「あ、梅村さん、違うの…うっ……」
堪えてきた何が溢れ出すように。
村主さんは泣いていた。
何顔を見られたくないのか、その場にしゃがみこみうずくまった。
顔を見られたくないんだと思う。
今、この子へ歩み寄らなければ、
また消えていってしまうのかな。
まだ村主さんとは何も始まっていない。
ただのクラスメイトだ。
友達でもない。
毎日顔を合わせるだけの人。
姉に似ているから、そんな理由から好きになった。
そんな人を。
私が手を差し伸べても良いのだろうか。
考えるな。
「梅村さん…?」
「…泣いていい」
私は彼女に近づく。
ゆっくりとその場にしゃがみこむ。
震えている肩をそっと抱き寄せた。
耳元から声にもならない、苦しい息遣いが聞こえてくる。
抱きしめて感じる、香りも温もりも、姉とは違う。
似ていても、違っている。
好き。
姉の偶像を追いかけていた私を、あなたを好きにさせてくれた。
そんなあなたのそばにいたい。
もう誰も手離したくない。
「私ではダメか?」
村主さんは私から身を離す。
驚いた表情の彼女と目が合う。
その一瞬は、時が止まったように長い時間に感じられた。
私ではあなたを満足させられない。
黒森さんではないから。
だけど、もう愛しい人を離したくない。
利用されたって良い。
変わりだって良い。
慰めのための道具にだってなってやる。
「私、最低だよ。」
「構わない。」
「梅村さん、軽蔑するかも」
「大丈夫。」
「黒森さんが好きなんだよ?私。」
「知ってる。」
「知ってて、私を?」
「出会ってからずっと。」
「意味分かんないよ」
「意味分からないくらい、村主さんを好きになってた。」
恋愛に定義なんてない。
正解だって無いし、間違いも無い。
だからこの恋の終着点を私は知らない。
「好きです。ひなの。」
私は彼女の頬に手を添える。
「梅村さん、見る目ないよ」
「ないかもね」
村主さんはしょうがないな、と言わんばかりの笑みを浮かべ、私に顔を近づけた。
「いいの?私で」
「いいよ。私が全部、上書きしてやるから。」
今はまだ私を利用して。
いつか、私を見てくれるように。
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