第27話 番外編
高校生になった。
姉とは音信不通のまま入学式の日を迎えた。
あまりの私の落ち込み具合に、また母は家から出られなくなった。
だから入学式には来ていない。
私のせいで、家族はバラバラになってしまった。
母も調子を取り戻していたのに元に戻ってしまった。
"入学式ダルい"
"あの人かっこいい。何年生かな?"
"先生うるっさ"
今日は心の声が沢山聞こえてくる。
耳鳴りでも起こしてしまいそうだ。
それもそうだ。入学初日で本音をベラベラ話すやつなんていない。
「大丈夫ですか?」
「平気……っ!」
目まいでふらつきそうになった時、誰かに肩を支えられた。
肩の側で、色素の薄い髪の毛が揺れた。
お姉ちゃん…
顔も、背も、私の肩を支えてくれた手の小ささも、姉そっくりだった。
「村主さん?」
「…体調、悪いですか?」
「いいえ。…何ともありませんから、大丈夫ですから。」
隣にいる人の言葉を無視し、私を心配してくれる。
姉にとても似ている。
だけど心の声が聞こえた。
"黒森さん…"
決して、私なんて見ていない。
目の前のこの子は姉とは別人だ。
姉と似ている。
ただの偶然だと思う。
「それじゃ、これ。」
「え?」
そう言って手渡されたのは350mlサイズの水。
朝買ったばかりなのだろう。
まだ冷たい。
「口つけてないから、飲んで。」
「いや、あっ…」
「黒森さん!」
私にペットボトルを押し付けるように渡して、心の中でずっと呼びたがっていた名を口にしながらその子は去っていった。
後に同じクラスであることが分かった。
村主 ひなの
姉に未練だらけで恥ずかしいけれど、私は村主さんに恋をした。
彼女はひたすらに同じクラスの黒森さんを思い続けていた。
そして私の村主さんへの恋心は日に日に増していった。
村主さんが姉に似ていたのは見た目だけで、姉ほどの強気な感じはなくどちらかといえば控えめなタイプの子だ。
家庭科の授業では苦戦しながら縫い物をしていたし、たまに廊下で転びそうになっているところを見かける。
側で見守りたくなる子だった。
毎日、遠くから村主さんを見ていられるだけで私の嫌になりそうな日々が救われた。
だからこそあの時。
村主さんが危ない方向に行ってしまいそうになっていた。
助けなきゃ。
今度は取り返しのつかないことになりたくない。
私は黒森さんに忠告した。
たまたま始めたばかりの夜の仕事が終わった時に出くわした。
タイミングが良かっただけだ。
だけど彼女の行動は少し遅かった。
嫌な予感がした。
私はトイレに行くと言って授業を抜け出した。
3人を探した。
村主さんを探した。
この学校で見つからないで話が出来る場所なんてないはず。
とにかく走り回った。
後から先生になんて言おうか。
その答えも導き出せないまま私の足は動き出す。
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