第30話
どうやら夢ではなかったらしい。
あんなに小っ恥ずかしいことを言ってしまった自分を脳内で攻めまくる。
1週間はあっという間で、朝から詩音と花火大会に着ていく浴衣を買いに外に出ている。
とりあえず近場のショッピングモールで浴衣を買い、詩音の家で着替えてから花火大会に行く流れになった。
のだが、
「一語一句、録音しておきたかったなぁ。大好きって」
「やめて、お願いだから。無理。やめて。」
駅前に集合するなり、詩音は私があの日夢の中で言ったこと(夢ではなかったが)をニヤニヤしながら話してくる。
「てか、もう1週間経つし」
1週間もこれがネタにされている。
毎晩の電話で、もう1回言って、とせがまれ、正直鬱陶しい。
私の右腕をぎゅっと抱きしめるように掴み、
「私は言えるよ!百合、大好き!」
と先程から何度も言われている。
夏休みとは言っても、学校の誰かが見ているとも限らないし、学校と詩音のキャラがかなり違っているからとヒヤヒヤしているのは自分だけみたいだが。
「ほーら。着いたから。」
ショッピングモールの浴衣コーナー。
色とりどり、様々な模様の浴衣が並んでいる。
周りには下駄やバッグ、髪飾りなんかもあって華々しい。
詩音にはどんなものが似合うかな。
詩音は肌が白いし、髪の毛も色素が薄くて白い。
本当に天使みたいだし、何色でも似合いそう。
淡い色の浴衣は見た目と合っているし、あえてシックな浴衣でも大人な感じがして似合うと思う。
「…百合、なんで私を見てるの?」
詩音にどんな浴衣が似合うか想像していたら、いつの間にかじっと見ていた。
知らない人同士だったら、ただのヤバい人だ。
「あっ!これ、百合に似合いそう」
詩音は一着の浴衣を手に取ると、私の前にかざすようにして、私を頭の先から足の先まで見る。
私の目の前に今ある浴衣は、ベースは白地だが黒のレースが模様になっている、ガーリーな雰囲気だが甘すぎないものだ。
セットになっている帯も白地に少し模様が入っていて、浴衣と相性抜群だ。
だけどそもそも浴衣を着た記憶なんて、小学校に入るよりも前だ。
「私はやっぱ、いいよ。」
「え」
「これとか詩音に似合いそう。…詩音の浴衣姿見たいな。」
私はたくさんの浴衣が並んでいる中から、淡いピンクの花柄の浴衣を選んだ。
そして詩音にかざしてみる。
浴衣自体がかなりふわふわした印象だから、詩音の雰囲気と合っている。
私にはこういうものは似合わないと思うし、どうせなら似合う人に着てもらった方が浴衣も良いだろうし、詩音が着たら可愛いと思う。
「なにそれ」
「…詩音?」
「私も百合の浴衣姿見たいんだけどっ!!!」
詩音の大声が響き渡る。
数秒間辺りが沈黙する。
まるで時が止まったみたい。
詩音は咄嗟に自分の口元を両手で覆う。
でもそれは一瞬で、私が詩音に着てほしくて持っていた浴衣と、自分で持っていた黒レースの浴衣と2つ、詩音は手に持ち、あっという間に会計を済ませた。
唖然としていると手を繋がれ、
「帰るよ」
とだけ言われた。
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追憶のアンサー 唐揚げと檸檬 @karaagetoremon
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