第18話
「梅村さんが、…村主さんを」
「そう。好き。」
梅村さんは村主さんのことが好き。
いきなり告げられたことに頭が回らなくなりそうだ。
梅村さんは相変わらず表情を変えない。
「村主さんと話してるのとか、見たことないけど。」
「ないわね」
「…接点とかあった?」
「それもないわ。」
梅村さんは冷静に答え続けた。
そして軽く目を閉じた。
目をゆっくりと開く。
「…黒森さん、はっきりしてほしい。村主さんは壊れていく。それはいつかは分からないけど、彼女は脆く壊れやすい。」
梅村さんの宣戦布告のような言い分だった。
またバッグの中から電子タバコを取り出す。
そしてまたタバコを吸い始める。
「私こっちだから。おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみなさい。」
梅村さんと曲がり角で別れた。
"はっきりしてほしい"
このことに私が逃げ続けてしまえば、村主さん、そして詩音も危ないかもしれない。
実際に今日、村主さんは自分で自分の手に傷をつけた。
ため息が出た。
しっかり言わなきゃ。
そう言い聞かせて、言い聞かせて。
だけど、少し怖くて、
気づけば時間が過ぎた。
あと半月で夏休み。
期末試験も終わり、進学校の生徒でも少し浮かれ気分になっているこの頃。
詩音と村主さん、3人でいることが居心地が良くて、ぬるま湯に使ったような気分だった。
私はやっぱり甘かったんだ。
肝心なことを2人に言えていなかった。
「話があるの。」
「あぁ、ここじゃダメなの?」
「時間がほしくて。」
「バイトまでの時間なら大丈夫だよ」
「ありがとう、百合ちゃん」
村主さんから話がある、と言われた。
なんとなく察しがつく。
私から切り出さなければならなかった話だったのに。
「百合と二人で?」
「ごめんね、詩音ちゃ」
「私だけ、ハブなの?」
詩音が私と村主さんの間に割って入る。
全員、変なくらい静まりかえる。
私は顔を上げられない。
放課後じゃなくて、今この場で起こってはならないことが起きてしまった。
顔を上げられない私の視線には、自分の席から立ち上がり、強く握りしめている手が見える。
その手は震えていて、村主さんの手だ。
「…ねぇ、前から気になってたんだけど」
「その話なら、…行こ。百合も。」
詩音が私にも声をかける。
次の授業が始まりそうだ。
「始まっちゃう、次の」
「ごめん。…私はそれどころじゃない。」
「詩音!」
詩音は振り返らず教室を出ようとする。
続けて村主さんも出ていく。
教室がザワザワする。
その中で梅村さんと目が合う。
あっさり目を背けられる。
「っ…!!」
私は急いで2人に追いつこうと、教室を駆け出した。
途中で次の教科担当の先生から声をかけられたが、それを無視して走った。
私の、せいだ……!!
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