第8話
「ここ、別荘なの。」
「へぇ……」
流石に呆気にとられてしまった。
つまり、白木さんは親元を離れて家で持っていた別荘で暮らしている。
3階建て、エレベーター付き。
たまにお手伝いさんが来て掃除をしたりしてくれるらしい。
「私、本当に入って良かったの?」
「当たり前でしょ。恋人なんだから。」
さらっと"恋人"と言い、1階の奥の部屋に案内される。
いかにも女の子らしい、白とピンクを基調とした部屋だ。家具も色が統一されていて可愛い。
「流石に1人だと、ワンフロアで充分。」
ワンフロアというか、この一室があれば広さとしては一人暮らしだと申し分ないくらいだ。
「いいなぁ…」
「えっ…」
つい本音がこぼれ落ち、私ははっとして自分の口を手で覆う。
今まで白木さんといて感じたことの無い空気を感じ、少しゾワっとした。
「別に、良くないよ」
寂しさにも、悲しさにも取れるような、そんな表情を浮かべる。
白木さんはこの家をよく思っていない。
踏み入れては行けないパーソナルスペースに踏み込んでしまった。
「ごめん。そんな顔して欲しいわけじゃ…」
「あ、あ…ごめんなさい、違うの!全然……」
白木さんの目がうるうるしている。
必死に涙をこらえている。
品があって、美人で可愛くて、頭も良くて、非の打ち所がない。
そんな彼女が、私の前だけで見せた一面。
誘惑するような視線、子供のようにはしゃぐ姿、泣きたいのに、きっと今の今まで泣けなかったこと。
今日1日だけでも色々な表情を見せてくる。
どれが本当の白木さんか。
きっと全部、本当の白木さんだ。
「白木さん。」
「…何」
「私の前で無理しなくていい」
広い室内で向かい合って私たちは座っていた。
私はゆっくりと距離を詰めた。
白木さんは後ろに手を付き、少し体を後ろへ傾ける。
「どうしたの?私は白木さんの嫌がること、しないよ?」
「…なんか悔しい。」
思いっきり顔を背けられる。
「…ガキかよ」
ギュッ
「っ!!」
「何。いつもの仕返し。」
私は白木さんを抱きしめた。
私の腕の中で少し震えている。
少しづつ落ち着きだすと、力が抜けたように私の肩に白木さんの顔がクタッと乗っかる。
「無理、しない」
「うん。いいよ。」
「好き」
私の肩が白木さんに押される。
顔が近い。
「え?」
「だから、好き」
「信じられないんだけど」
「一目惚れだけど」
「自殺しかけてた人に?」
「自殺しかけてた人に」
おかしい。
自殺しかけてる人を助けるまでは分かるけど、何故それが好きに繋がるのか分からない。
白木さんはやっぱりおかしい。
「百合…」
「何?」
「百合と一緒にいたい。百合が好き。大好き。……1人にしないで、」
肩から白木さんの手が離れる。
足元にその手を置くと、置いた左手の甲を右手で思いっきり抓り始めた。
「やめなって」
私は今にも出血しそうなくらい力を込めていたその右手を掴む。
なんでそんなことをするのか。
自分を痛めつけたって良いことなんてない。
白木さんの右手を掴んでいた、自分の左手首を見る。
まだ包帯は取れていないし、たまに少し痛む。
今だって、少し痛い。
「私は白木さんを1人にしようなんて思わない。」
私は一呼吸おいて、言葉を繋げていく。
「死のうと思ってた。でも白木さんが助けてくれた。いちばん辛い時に助けてくれた人を、1人にするわけないでしょう。」
白木さんは不安定だ。
きっと大きな何かを抱えている。
「…ごめ」
「謝んなくていい。でも、付き合うのは却下!」
「…いじわる。」
「ごめんね、いじわるで。」
「…いじわるして。」
「…目瞑って。」
私は白木さんを抱きしめ、軽く触れるくらいのキスを落とした。
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