第37話

そんなこんなで私のクラスは学園祭でメイドカフェをすることになった。

他のクラスはお化け屋敷だったり、演劇だったり、かなり定番のものが並んだ。


準備は基本、放課後が空いてる人がやるけど任せっきりは申し訳ないので週1はバイトを休んで手伝うことにした。

黒森さん放課後毎日忙しそうだし無理しないで、とも言われたけど皆がかなり頑張っているので協力せざる負えない。


今日の放課後はメニューの試作品作りだ。

このキッチン台の前には私、詩音、梅村さん、秋山さんが並んでいる。

正直私も詩音も、梅村さんも器用ではある方なので調理は段取りよく進む。のだが、


「秋山さんすご…」

「いや、母の見様見真似だ」


秋山さんは卵を片手で割ったり、高速で野菜を刻んだり、決して私たちが料理が出来ない訳では無いが、異次元のスピードでことをこなして行く。



「父も母も、料理が上手いんだ。」

「そっか。すごい。」



正直秋山さんとは同じクラスだけどあまり関わりがなかった。

こういう学校行事でも無いと、クラスの人と関わることは無い。


余談だけど、秋山さんはパソコン部でタイピングがめちゃくちゃ速い。


基本動作スピードが速いタイプなのだろう。



「出来た。味見してみようか」


秋山さんが盛り付けしてくれて目の前に料理が置かれる。


試作品の一つ、オムライスだ。

誰だか忘れたけど、メイドカフェと言えばお絵描きオムライス!なんて言ってたことを思い出した。


表面の卵は1度焼いてラップに移し、その後にケチャップライスをくるくると丸めて、このやり方だと誰が作ってもほぼ成功する。



「それよりも大事なのは、メイド係」



秋山さんのメガネ越しで目が合う。

キリッと私と、詩音を見る。

それに続いて梅村さんの視線も私たち2人に突き刺さる。



「ここからのケチャップ次第よね」

「そうだな。」


隣の詩音は何故か自信満々である。

手にケチャップを持って気合十分だ。

私も、まぁバイトで盛り付けとか頑張ってるし、行けるだろ…



「白木さんはこういうの苦手なのか?」

「あぁ、うん。」


秋山さんに問い詰められ、萎縮しながら詩音は返答する。

別に秋山さんは怒っていないし、ぶっきらぼうな感じだがどちらかというと詩音の苦手分野を面白がっているようにも見える。



「これ、何?」

「……うさぎ」



もはや動物にも見えない。


「ふふっ」


いつも表情に変化がない梅村さんですら、若干笑ってしまっている。


「貸してみて。」


秋山さんが詩音からケチャップを受け取ると、



「秋山さん、すごいね」

「ありがとう。」

「さすが、コンクールで賞を取るだけあるわね。」

「え!?秋山さんってなんでも出来るね」

「そんなことないよ。」



私たち3人が秋山さんがオムライスののったお皿の余白に描いたケチャップのネコを見ながらすごい!と言っていると、詩音は不服そうな顔をした。

そのままその場にしゃがみこみ、キッチンの下へと座り込んだ。


「詩音、大丈夫だよ。練習すれば」

「うん…」


詩音は壁の方を向き、拗ねた顔を私に見せないようにする。

私は詩音の隣に座り、下から顔を覗き込み、キッチンの影で頭を撫でた。



「よしっ。白木さん。」

「…はい」


上から声がして、詩音がゆっくりと立ち上がる。

秋山さんが何かを閃いたかのように手をパチンと叩く。



「私と特訓しよう」



秋山さんの提案に、詩音はぽかーんとした顔をしている。


「この際、看板づくりも手伝ってもらおうか。毎日何かを描いていれば慣れるかもしれない。」


その理由には私も納得だ。

だけど、当の本人は…



「百合とがいい。」

「ごめん。」


「頑張ってるのわかるから、無理言わない。」

「はーい。よしよし。」


私がなだめると、渋々秋山さんの提案を了承してくれた。



「私は何を見せられてるんでしょうね。」



梅村さんが何かをボソッと言ったけど、聞かなかったことにしておくことにした。

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