第36話

夏休みが終わった。

バイトだらけの日々が終わり、また学校が始まった。


うちの高校では夏休みが終わると、学園祭の準備が始まる。

1・2年生はクラスの出し物は半強制で、3年生は受験もあるから出店も自由参加になっている。


うちのクラスは何になるんだろう。

出店についての話し合い中、私はぼーっとしていた。



「黒森さん?」

「あぁ、ごめん」


「黒森さんでもぼーっとするのね?」

「するよ。そっちは良く…眠くならないの?」


「全然」


今、私の隣の席に座っているのは梅村さんだ。

夏休みが終わって、一発目に行われたのが席替え。


教室の入口側の1番後ろの角の席になった。

その左隣に梅村さん、という席だ。


そして不運というか、なんというか、

窓側の1番前の角席に詩音、その右隣に村主さんという、まだなんとなく蟠りが残る2人が隣になった。


あの2人も気まずそうだが、こっちもこっちで気まずい。

でも梅村さんは何も気にしているようには見えない。

普段からあまり何を考えているか分からないからなぁ。


そんな梅村さんは、最近村主さんと仲が良さそうだ。

告白したのか、していないのか。

そんなところまでズケズケと聞けないけど、良い関係なのだとは思う。



「何か良い案は思いついたかしら?」

「いや、全然。」



梅村さんのツインテール姿…


「メイドカフェ?」

「は?」


なんでそんなにキレ気味なの!?

梅村さんは不思議だ。

あのツインテール姿は私以外に見たことがある人はいるのだろうか。



「…多数決で、メイドカフェに決まりました!」



先に他のクラスメイトが出していた案の中にメイドカフェがあった。

というわけで、私が何をしたわけでもなくメイドカフェになった。



「売り子、メイド服着たい人ー!」


「はい。ここの黒森さんが。」

「は!?」


隣で手を挙げながら梅村さんが私の名前を出す。

私はこの会の司会の子と梅村さんを見る。


正気か…?



「確かに。黒森さん結構美人だし」

「綺麗な人のメイドってギャップ萌え?」

「いいね!黒森さん!」



大して話したことの無いクラスメイトの視線が一斉にこちらに向く。

その1番奥と目が合う。


私は目で「やりたくない」と訴える。


そんか私宛にウインクと指ハートが送られる。



(詩音…!!)



「あ、白木さんもメイド、似合うと思います。」


梅村さんが詩音の方を向く。

今度は視線が一斉に詩音の方へ向けられる。



「それじゃ、黒森さんと白木さん中心に、やっていく感じで大丈夫かな!?」


「うん。大丈夫!」



なんか、詩音が乗り気なのだが!?


一方で、その隣。

村主さんはずっとどこかをぽけーっと見ていて、話し合いには参加する気がないみたい。

優等生、中学から存在は知っていた彼女が優等生をまるで演じていたかのように気が抜けている。


「…梅村さん」

「言いたいことがありそうね」


「あぁ、うん。村主さんと、どうなったかなって?」


この人が好きなあの子を振った私が聞くなんて失礼ではあると思うけど。



「聞きたい?」

「まぁ、少し」



接点がなかった2人が夏休み明けで仲良くなっているなんて、気になる。


「…ふふっ」


梅村さんが、笑った…?



「内緒」



梅村さんが、いつもと別人みたいに柔らかく微笑んだ。

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