第12話

「百合、行こっ!」


白木さんはいつにも増してにこにこしながら私より数歩先を歩いている。

彼女がとても楽しそうなのが後ろ姿だけでもわかる。


私は周りのアトラクションやお店、この遊園地という空間に目を奪われる。

歩くのも忘れて周りをキョロキョロと見てしまう。



「百合、遊園地は初めてなの?」

「ううん。でも随分小さい頃に来たかも。」


あれは小学校にも入学する前かな…


「多分保育園とかの何かで来てたんだよね。」

「へぇ。」


気づくと白木さんは、私がノロノロと歩いていたのに歩幅を合わせてくれていた。

いつの間にか勝手にTシャツの裾を少し掴まれている。

とりあえず、気にせず歩くことにする。



「迷子の子がいてさ。…勝手に班行動抜け出してその子の家族探してんだよね。」

「……」


今ではその子の顔も覚えていないし、記憶だってかなり曖昧だ。

でも私の中であれだけ規律から外れたような行動をしたのはその後はない。


「何をしたか全く記憶にないけど、その子とふたりでずっと遊んでたな。迷子なんだから親探してあげなよ、って今は思うけど。」


最高の反抗期はこの頃だったのかもと、今となっては笑い話だ。



「きっとその子は、嬉しかったと思うよ」

「そうかな?」


何かを回想するかのように、遠くを見つめながら白木さんは呟いた。

そしてTシャツの裾を握っていた手が、今度は私の手を握る。



「だって、今。百合といるのが嬉しいし、楽しいから。」



また上目遣いで私を見る。

今日は一段と可愛い。

全てが可愛い。


私はさらけ出してはいけないような感情を押し殺して話題を変える。


「絶叫系いける?」

「え」

「乗れない?」

「……乗れなくない」


これは苦手なやつだ。

白木さんの言葉が少したどたどしくなる。


「じゃあコーヒーカップにでも乗ろうか、行こう。」

「えっ、」


私は握られていた手をひき、向かう方向を変える。

白木さんに楽しんで欲しい。

自分よりも白木さんが楽しんでくれればそれで良い。


「いいの?」

「せっかくだから一緒に楽しもうよ」

「…うん」


白木さんはにっこり笑って私の後ろをトコトコとついてくる。

前に妹がいたら、なんて想像したけど。

きっとこんな感情なのだろうか。


楽しんでほしい。

笑っていてほしい。


この時間を幸せだと感じてほしい。



そんなことを誰かに思ったことは初めてだ。

白木さんの色んな一面を見ると同時に、私が持っていなかった、知らなかった感情を知ることが出来る。


不思議。


ずっと自分は誰とも関わらない方が良いと思って生きてきたのに、

自分が関わると大切な人たちが消えていってしまうのに、


普通の高校生みたいな日常を送ることが出来ていて、


それが今、本当に楽しい。



「百合。」

「何?」

「百合は、楽しいって、思ってくれてる…?」


今なら胸を張って言える。



「楽しいよ。だって」

「…?」



「詩音が隣に居てくれるから。」




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