第11話
中間試験が近づく。
校則上、試験1週間前はアルバイトが強制的に禁止になる。
進学校だから、もしバレたりしたら内申点にどう響くか恐ろしいくらいだ。
"一日、空けてよ"
試験前ではあるけれど、タイミングはこの時しか無かった。
だから、今日は白木さんと2人で会う。
放課後はあっても、休日にわざわざ会うことは初めてだ。
オシャレな私服なんて持っていないし、とりあえず白いTシャツと黒いデニムという無難な服装に落ち着いた。
ファッションはよく分からない。
かなり無頓着な方だと思う。
天気は快晴だ。
せっかくどこかに行くのだから晴れている方が良い。
せっかくだからと少し電車に乗って出かけることになった。
とはいっても、白木さんはどこに行こうとしているんだろう。
電車で出かけようと言い出したのは白木さんだった。
待ち合わせの10分前。
近くの駅で待ち合わせ。
私が到着すると同時に、向こう側から白木さんが歩いてくるのが見えた。
制服じゃないから雰囲気が違う、というかより美しさが際立っている。
「お待たせ」
「大丈夫。私も今来た。」
白い7分袖のワンピース。
髪の毛も少し巻いていて、いつもより大人っぽい。
残念なことに、隣にいるのはカッコイイ男性ではなく、身なりに無頓着な女だ。
チラチラと通り行く男性の視線が白木さんに向いていることを本人は気づいていない。
「…」
「え、何?」
白木さんは私をじーっと見ている。
そんなことより自分に向けられている視線を少しは気にしてよ、と思う。
「……」
「だから、何?」
メイクをしているから頬が赤いのか、それともチークのせいなのか。
白木さんはじーっと私を見たあと、スっと顔を下に向ける。
「具合でも悪いの?」
「…ちがぅっ……」
微妙にモジモジしている白木さんの手をとり、私は駅の改札へと向かう。
乗りたい電車がもうすぐ来る。
「早く行こう。時間そろそろ」
「…うん。」
私が強引に白木さんの手を取ったけど、白木さんはそんな私の手を握り返した。
つまり手を繋いでいる。
どうせ遠出するから迷子なったら嫌だし、なんて適当に言い訳を頭の中で考えた。
電車に乗り込む。
隣に座った白木さんはなんだか楽しそうだ。
さっきと同じくらい頬が赤いけど、口角が上がっているから、きっと今から行くところが楽しみなんだろう。
「百合」
「何?」
「百合は行きたいところとかなかったの?」
今向かっているのは、遊園地だ。
といっても駅近で入場料もかからない、某夢の国のようなものでは無い。でもそれなりに有名なところだ。
「正直、誰かと遊びに行ったこととか記憶にほぼないんだよね。だから白木さんの行きたいところで良いよ。」
金銭面で負担をかけたくなかった。
これが遊びにあまり行かなかった一番の理由だ。
祖母は周囲からの言葉から私を守ってくれていた。
絶対私を否定するようなことは言わなかったし、そういう行動も無かった。
「ふふっーん🎶」
「ん?」
「遊園地でしょ、あと近くに可愛いカフェがあるの、他には…」
全部一日で周りきれるのかと思うくらい、次々と白木さんは行きたいところを言っていく。
「と……言い過ぎたね」
「そんなに楽しみなの?」
私の問いに、綺麗に巻いた髪の毛をゆらゆらさせながら白木さんは答える。
「だって、百合を今日は独り占め出来ちゃうから!」
少女マンガに出てくるヒロインがいかにも言いそうな言葉をさらっと白木さんは言う。
もうすぐ到着する。
不覚にも、少し心拍数が上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます