第10話
今日1日、白木さんはほとんど私に対して機嫌が悪かったし、口を効かなかった。
そんな日はこれまでなかったし、なんならこの前は私の前で泣いていたくせに。
バイトが終わる。
家に着くともう11時になっていた。
お腹がすいたから少しコンビニに寄ってしまったせいでもある。
20円引きになっていたおにぎりを食べる。
白木さんが気になって、頭の中がグルグルする。
(誰だ…)
スマホの着信音が静かな室内に鳴り響く。
メッセージアプリからの電話だ。
「白木さん。」
電話は白木さんからだ。
タイミングが良すぎる。
「夜遅くにごめんなさい。」
「別に、良いけど、」
夜遅くといっても、私が電話出来る時間なんてこのくらいになってしまう。
バイトをしていることを知っているし、わかってこの時間にかけてきたんだろう。
「…」
「どうしたの?」
「…ちょっと嫌だった」
「は?」
もう少し詳しく言ってくれないと分からない。
白木さんは肝心なことを言わない。
濁す。
「百合、」
「何?」
声音は何だかオドオドしているような、戸惑っているような。
「……はぁ、」
私はため息をひとつつく。
「詩音、私の前では…ね?」
無理しなくていい。
この前、白木さんの家に行った時に言ったことだ。
泣きたいのなら泣けば良い。
だから、言いたいことがあるのならいくらでも言ってほしい。
「…名前」
ボソッと主語も、まともな語尾もない、ただ一言、単語だけの返答。
でも心の中でそういうことか、と理解する。
「百合って、呼ぶの。」
「…もしかして妬いてる?」
何でだろう。
駄々っ子みたいな白木さんが可愛い。
名前を呼ぶ、そんなことだけで子供みたいに拗ねてしまうから。
「…分かって聞いてるよね」
「はいはい、好きなんでしょ?私のこと。」
「好き。」
「はいどうも。」
私にも、もしかしたら妹とかがいたらこんな感じなのかなと想像してみた。
家族としての記憶は私にとっては祖母だけだ。
だから兄弟がいる感覚なんて分からない。
「もぉ。…キスしてきたくせに」
「最初にしたのは、白木さんからだよ」
「詩音。」
「?」
「名前で呼んで。」
「詩音。これで良い?」
「そういうことじゃない!」
少し意地悪したくなってしまう。
そうさせているのは、白木さんだから。
「百合、好き。好き。好き……」
「はいはい、わかったから」
吐息混じりの声が電話越しに聞こえてくる。
少しゾワッとする。
「そんなに好き好き言わなくても分かってるから」
「百合と恋人になりたい。」
「私はそういうの興味無い」
「…百合に会いたい」
「夜遅いでしょ。明日学校でね。」
「やだ、今会いたい」
「ワガママ言わない!明日ね」
「…じゃあ、約束」
「は?」
「一日、空けて、」
「え?」
白木さんが電話越しでニヤッと笑っているのが目に浮かぶ。
「私と、デートしよ!」
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