第13話

知らぬ間に白木さんを"詩音"と呼んでいた。

一瞬、何が起こったか分からないような顔を目の前の彼女は見せてくる。


「…名前」

「ごめん勝手に呼んじゃ」


「嬉しい!やっと詩音って呼んでくれた!」


握っていた手がさらにギュッと握られる。


「詩音って呼んで、これからも。……ダメ?」


もう今更どうでも良いか、と私は明らかに開き直ったように言った。


「良いよ、詩音」

「好き、百合」

「それとこれとは別でしょ」

「もぉ!!」



これはそういう好きとは違う。

そもそも、それが何だかを知らない。


でも今は、コロコロと表情を変える詩音を傍で見ていたい。


それだけは確かだ。







一日中遊び回って、いつの間にか夜になっていた。

辺りは暗くて、遊園地のアトラクションや照明がここに光を灯している。



「そろそろ、帰る?」

「そうだね」


遊園地を出て駅の方へと歩く。

気づけば今日は手をずっと手を繋いでいた。

どちらからという訳でもなく、いつの間にか当たり前みたいになっていた。


「あぁ、帰りたくないな」

「明後日また学校で会えるじゃん。」

「そうだけど…」


名残惜しそうに詩音は言う。


明日は当たり前にやってきて、なんてことは無いことを私は身をもって知っている。

もしかしたら私がいなくなるかもしれないし、詩音や、もしかしたら周囲の誰かがいなくなっているかもしれない。


自分でまた会えると言ったけど、その保証なんてどこにもないんだ。


嫌なことを考えてしまう。


こんな私を詩音に知られたくない。

そう思ってしまうのは私の我儘なのだろうか。


「明後日まで我慢するね」

「うん。良い子。」

「子供じゃないんだけど!」


私は詩音の頭を空いていた方の手でポンポンっと軽く撫でた。


もう周りの大切な人たちがいなくなるなんて嫌なんだ。


「えへへ、…百合が頭撫でてくれた」


この笑顔が消えないでほしい。

私から何もかも、奪わないで。


「帰ろう」

「うん」


私たちは駅へと歩き始めた、

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