追憶のアンサー

唐揚げと檸檬

第1話

私は昔から疫病神だった。


顔すら覚えていない両親は飛行機の墜落事故に巻き込まれ亡くなった。

祖母の家に預けられていた私だけが生き残った。


そして私の親代わりになって育ててくれた祖母も、先日亡くなった。


つまり私には、もう家族はいない。


窓から差し込む太陽の光は、今の私の感情とは正反対だ。

私はカーテンを勢いよく閉めた。


この家は私が住むには広すぎる。

どうせお金だって無い。維持費なんて払えない。

祖母との思い出が詰まったこの家とは今日でサヨナラだ。


悲しい、そんな感情が湧いてこなくて

ただひたすら明日からの生活への不安感が私を襲う。


とりあえずバイトをすることにした。

高校はギリギリ奨学金に申し込んで、なんとか学費が半分免除になった。


私は1人で生きていけるのだろうか。


神が与えた天罰なのだろう。


私がこの世に生まれてしまったという罪。

私さえいなければ、両親は、祖母は…



私さえ、私さえ、いなければ……



ペンポーチの中から、鋭い刃物を取り出す。

ねぇ、もういなくなるからさ、


疫病神は消えるから、お父さんを、お母さんを、おばあちゃんを、



「っ…」




手首から赤黒い液体が流れ出る。

その液体がポタ、ポタと畳を染め上げる。



もっと、深く、深く…



私はその刃物を持っている手に力を込める。



痛い、痛い、痛い…



流石に出血量が多かったのか、だんだん頭が回らなくなってくる。

フラフラする。


あと、少しっ…っ…



もう死ぬから。


早く死なせて。





ドンドンッ!!!!




(何っ…!?)


大きな物音に、思わず刃物に力を入れていた手を離した。


物音がした方向に私は目線を向ける。




(…誰?)




私の黒髪とは正反対の、白にも銀にも見える綺麗な髪の毛。

まるで天使のような、女の子が窓をひたすらドンドンと叩いている。



(もしかして、本当に私、…死ねた?)



天国…からのお迎えなのだろうか。



フラフラしながら、床を這うようにして窓の方へと向かい、鍵を開ける。


鍵を開けた瞬間、勢いよく天使のような女の子が窓を開けた。




「な、何やってんの!?ま、まって、今、救急…」

「辞めて…死にたいの……」


目の前の女の子が必死の形相でどこかに電話をかけている。



私はそこで意識をなくした。




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