第16話
昼休み終わりの授業の途中、詩音と村主さんが戻ってきた。
村主さんの手のひらには大きめの絆創膏が貼られていた。
授業が終わってから、斜め後ろの村主さんの方を見た。
目が合う。
「心配しないでね」
「…うん。」
こういう時、なんて声をかければ良いのだろう。
少なくとも私のせいで…こうなったんだ。
私がどっちつかずの態度をとっているから。
梅村さんにどちらかを選べ、と言われたことが頭をよぎった。
「心配するよ!戻ってきたら、手があんなことになってたんだから。」
「ごめんね。爪切ろうかな。」
「…」
村主さんは明るく振る舞う。
私はかけてあげる言葉が見つからない。
私のせいで……
「本当に、百合ちゃんのせいじゃないから、気にしないでね」
私が逆に慰められた。
詩音と目が合う。
だけど、私はその目線をそらす。
今思っている、不安なこととか、何もかも全て詩音には伝わってしまいそうだった。
詩音と村主さんが普通に話している。
それはいつも通りの光景で、何も変わったところは無い。
私は2人を苦しめている。
疫病神に戻った。
いや、きっと何も変わっていなかったのかもしれない。
明るくなったかもしれない。
友達だって出来た。
笑う回数が増えた。
でもそれは周りの環境が、私にくれたものだ。
私は何も変わっていない。
過去に言われてきた言葉たちに私はまだ囚われている。
辺りは暗い。
アルバイトが終わる頃には外は真っ暗で、今日の一連の出来事が思い出される。
村主さんが私のことをずっと見ていたこと、手から血を流していたこと、
梅村さんの発言
おかげでカフェの常連さんから心配されるし、スタッフの先輩方にも気を使われた。
いつもより少し、まかないが豪華だった気がする。
恋愛の好き、か………。
そんなもの、分からない。
会いたくて会いたくて、震えるもの?
今すぐその角から飛び出してきてほしい?
恋愛ソングや恋愛ドラマみたいな、感情の高ぶりみたいな、そんなものはその歌や物語の世界の感覚でしかなくて、現実はきっと違っていて、言葉には表せないような、きっとそんな感じだと思う。
家に帰るまでの道のりが、私の整理出来ない心の中みたいに長い。
「…あっ」
「……」
梅村さんだ。
夜遅くに出歩くなんて。
私も人のことを言えないけど。
「その格好…」
「内緒にして。お願い」
「うん。」
梅村さんは学校の時とは違って、低い位置でぴっしりとまとめたお団子頭ではなく、高い位置でくるくると髪の毛を巻いたツインテールにしている。
「この時間にうちの学校の人とこの辺りで会うことなんてないと思ってたわ」
今の髪型と可愛らしい服装とは正反対の、いつもと同じような口調で梅村さんは話す。
私の頭を悩まさせてくる張本人が目の前にいる。
そして帰る方向が一緒みたいだ。
逆に今まで道中で会わなかったのが不思議なくらいだ。
「いつもはもう少し遅いの。一応、19歳ってことで働いているから。」
「え…」
流石の私でも年齢詐称はしていない。
それでもそこそこの生活費を稼ぎ、生活している。
梅村さんがそこまでする理由って…
「こうしないと、私も母も、死ぬのよ」
梅村さんは小さなバッグの中から、電子タバコを取り出す。
クラスの中でも目立たない方の梅村さんが、全く違う別人に見えた。
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