第15話
村主さんはそこで言葉をとめた。
とまってしまった。
「……いや、別に」
「ハッキリ言ってよ」
私は彼女を問い詰める。
村主さんが抱いている疑問を、私はこの先村主さんが言う言葉を、
分かっている。
「……言えない。」
「なんで?」
村主さんは唇を噛んだ。
まるで何かから悔しがるみたいに。
机の上に置いていた手を握りしめた。
「私は、百合ちゃんのこと、ずっと見てた」
「えっ…。」
「お待たせ…、村主さん!?」
教室に戻ってきた詩音が、村主さんの手を取った。
その手からは、血がポタポタと滴り落ちる。
「保健室、行かなきゃ、」
「大丈夫だから」
「大丈夫じゃないからね、百合、保健室行ったって先生に言っておいて」
「う、うん……」
村主さんの綺麗に伸ばしていた爪が皮膚に食い込んでいた。
詩音は村主さんを連れて保健室へと向かった。
それを見ていたクラスの子が1人、私に話しかけてくる。
「黒森さん。」
「あ、」
「梅村 陽。…初めて話すわね。」
「そうだね。」
梅村さん。
クラスの中では目立つ方では無い。
誰かと一緒に行動するタイプでもない。
常に1人で、表情はいつも冷徹だ。
「そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だと思うわ。」
「あ、私は大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃないこと、私は分かるの。」
無表情のまま、全てを見透かすようにじっと梅村さんは私を見る。
そしてまた表情一つ変えずに言葉を続ける。
「村主さん、あなたのことが好きよ」
「…」
さっきの一連の流れからそれは私でも容易に想像できた。
「好き、かなり前からね」
「なんで、分かるの?」
「分かりやすいから、村主さんって」
梅村さんは口の端を少し上げた。
少し不気味な感じがする。
「あなたと白木さんの関係に嫉妬している。…かなり強く。入学初日からあからさまだったわ。分かりやすい。……あなたも気づいていたでしょう。」
全く気づいていなかったわけではない。
私のあとをついてくるように、行動していた。
でもそれが"嫉妬"から来るものだということを私は考えていなかった。
「ハッキリ言わないと、あなたの身に危険が及ぶ。」
「危険…?」
「村主さんを選ぶか、白木さんを選ぶか。2つをとって上手くいく道なんてないと思うわ。」
つまり、私は2人のうちのどちらかを選ぶ…
「なんで、選ぶなんて…」
「あなたは何を恐れているの?」
「2人とも、友達で…」
「あなたは、友達だと、…思っていないでしょう?」
私が、2人のことを、
「友達だよ」
「鈍いわね。自分の気持ちが、きっと1番分からないんだわ。鈍感。」
2人は友達だ。
私はそう思っている。
詩音の好きは恋愛の好き、…村主さんもだ。きっと。
でも私の好きはそういうものじゃない。
言い聞かせてる。
…言い聞かせ
「梅村さん。」
「何?」
こんなことを梅村さんに、まともに話すのなんて初めてなクラスメイトにいうのもあれだけど、
「恋愛の好きって…どんな感じなのかな」
「…そうね」
梅村さんは黙る。
少し沈黙が続く。
そして、口を開く。
「…きっと、気づいていないだけで、……黒森さんは分かってる。…もう答えは出ている。」
あまりにも不明確すぎる返答だった。
予鈴のチャイムが鳴る。
「大丈夫。自分の気持ちは抑えなくて良いものよ。」
梅村さんはそう告げ、自分の席へと戻った。
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