第42話
そんなの...
「私のこと、捨てるの?...百合も、捨てるの?」
「そんなわけ」
「嫌いにならないで、お願い.....百合しかいないの.......」
私の肩をギュッと掴み、詩音は縋るように私を下から見上げる。
「詩音、どうしたの...」
事の発端は私にあるとしても、絶対に様子が変だ。
喉から出そうになっていた言葉が奥の方に引っ込んでいく。
「なんで昨日怒ってたの...」
「なんでって」
「悪いところがあるなら直すから。全部っ、直すから。...いなくならないでよ。百合。」
「詩音は何も悪くないよ」
詩音は何もしていない。
私が勝手に、自分の感情をコントロール出来ていないだけ。
そう自分のせい。
「だったらなんで昨日からおかしいの?」
「それは...」
「言ってくれないとわかんないよ!!」
詩音が私の肩を掴む手に力が入って、痛い。
「やめてよ」
「答えてよ。言ってよ。」
私が問い詰められる形になっている。
「痛いから、手離して」
「やだ。やめない。」
「やめてって!!!」
私が放った声が思ったより大きくて、空き教室に響いた。
詩音の手が離れる。
「えっ」
「...っはぁ」
頭が回っているのか回っていないのか、私は冷静ではいられなかった。
「なんで他の人の前で笑うの」
「百合...?」
「誰にでもあんな顔しないでよ、私にだけ幸せな顔を見せてよ、詩音は私じゃなくても誰でも良いんだって思っちゃう、私以外の人っ、好き、なんじゃないかって思っちゃう、離れていきそうなのは詩音の方、私だけを見てよ、私だけの前で笑って幸せでいてよ、そんな顔、他の人に見せないでよっ!!!」
ノンストップで言葉が吐き出すように出てきた。
「...え」
「ごめ、...戻る」
自分が何を言ったのか、ふと我に返るとそんなことを思っていた自分がなんだか情けなくて恥ずかしくてその場を逃げた。
何、口走っちゃってんだろう。
自分がこんなに欲深いなんて、正直自分自身が気持ち悪く感じる。
詩音が誰と何をしようが私にはそれを拒否する権利なんてないのに。
「やばっ...」
こんなことを考えるなんて、本当に自分が無理。
誰もいない廊下の隅で力が抜けたのか、足から崩れ落ちるようにその場にしゃがみこむ。
まだ外は暑いのに廊下の壁は冷たくて、私の狂った頭を冷やしてくれるような感じがする。
教室に戻った。
いつ戻ったのか分からないけど、当然教室の奥、窓際に詩音はいる。
だけどここからお互い言葉を交わすことは無かった。
学園祭の準備は進んだ。
一緒に準備する時はもちろんあったけど、私は逃げるように業務連絡みたいなことしか話さなかった。
この気持ち悪い自分がどこかにいなくなるまで詩音と関わりたくなかった。
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