第19話 元童貞、ぶっかける
両脇に美少女を抱えた男は僕達のテーブルに座ってきた。
押し出されるようにして仕方なく僕はレクシーの隣に座り、彼ら三人と対峙する形になる。
「なんだなんだ。
大人の男には相手してもらえないから何も知らないガキに手を出そうってか?
イヤらしい女だなあ」
なんだって!?
「人聞きの悪い言い方をするな!
あたしは弟子の勧誘をしてるだけだ!」
えーっ、違うのかあ……がっかり。
まあ、それはさておきカンジの悪い男だ。
明らかにレクシーを下に見た様子で、ついでにそばにいる僕まで見下している。
そのクセ両脇の美少女である『ニーナ』と『ミーナ』(さっき名前を呼んでいたので覚えた)には優しく囁くような声で話しかけている。
このモテ男め……!
「おい、小僧。
何睨んでやがるんだ?」
「……別に」
「へっ。Aランク冒険者のレクシーさんの威を借りてたら強気にもなれるか。
そのカワイイ顔使って気に入られたってわけ————」
「失せろ。
弟子取りも武芸者の責務だ。
邪魔立てするなら容赦できん」
ギラリと鞘から抜かれた刃のようにレクシーの眼光が光る。
スッとあたりの温度が10℃くらい冷え込んだように感じて僕たちは震え上がった。
それでもさすがと言うべきか。
モテ男は一瞬、顔が引き攣ったもののすぐに立て直した。
「怖い顔すんなよ。
俺の弟子たちが怖がっちゃうだろ。なあ?」
モテ男がニーナとミーナに尋ねると、
「こっわーーい!」
「やばんじん!」
と鈴を転がすような笑い声を上げてモテ男の両腕に縋り付いた。
僕の奥歯が砕けそうなほど軋む音がしている。
うらやまけしからん。
ニーナはアニメキャラのようなピンク色のショートカットのロリっぽい感じの美少女だ。。
小柄ながら豊かな胸をしており動くたびにポヨンポヨンと跳ね回る。
モテ男に話しかける速度はゆっくりで甘え上手な印象だ。
ミーナは青髪ツインテールとかいうこちらもアニメキャラっぽい出立ちの美少女。
ニーナとは対照的でスラリと伸びた長い脚を晒すようなショートパンツを履いており、白く引き締まった太ももが眩しい。
ふたりとも二十歳には届かないくらいだろう。
モテ男はたしかにイケメンだ。
現代的に例えるならハリウッドの金髪(ブロンド)若手スターといった感じか。
スラリと背が高く広い肩と細く引き締まった腰が逆三角形の黄金比ボディを形成しっており、手脚も軒並み長い。
彫りが深く高らかに聳える鼻梁が作る顔立ちは男らしくも瞳は子犬のように濡れていて母性をくすぐりそう。
話し声も甘く、蕩かすように両脇の美少女たちの耳を犯している。
だが、他人を無遠慮に見下す視線が気に食わない。
さっきの反応からしてレクシーの方が強いと思うんだがなあ。
と、いろいろ考えているとモテ男が場の空気を取り戻すかのように話を始めた。
「営業妨害といえばそれまでだがな。
とはいえ妹弟子が欲に溺れ後進の邪魔をしているなら黙ってるわけにもいかないだろう」
「誰が欲に溺れていると!?
私は純粋に弟子を取りたくて」
「先生に認めてほしいだけだろうが」
モテ男がそういった瞬間、レクシーは言葉を詰まらせた。
「先生の最高傑作とまで呼ばれたお前が唯一果たせなかった流儀。
今際の際の先生と約束したんだっけか。
弟子を取り自分を超える武芸者を育てる、って。
お前みたいな超上級天職持ちのバケモノを普通の人間から育成しようとすんな。
鞭で叩いても人は育たねえよ」
悔しそうにレクシーは俯き、歯を食いしばっている。
場の空気が重い……
いけ好かないがモテ男が言っていることは正論……のように聴こえる。
レクシーの弟子取りが先生とかいう人物の遺言を果たすため、と言うのであればそれは私情であり、その為に弟子候補をシゴキ潰すのは身勝手な話だ。
天職で才能が左右されるこの世界において器を超える力を求めるのはナンセンスだろうし。
そもそも僕は弟子になるつもりないしね。
いや〜、いけ好かないけどナイスアシストだよ、モテ男。
「ま、弟子取りに関しては俺の方が勝ちってことだ。
なんならお前こそ俺に弟子入りするか?
不真面目な弟子のヤル気を引き出す方法を手取り足取り教えてやるよ」
「ちょっと先生! ニーナはともかく私は真面目じゃないですか!」
「ええ〜〜っ。
ミーナちゃんひどいよぉ。
あたしだって毎日いっぱい稽古してるのにい。
だよね、先生!」
目の前でいちゃつき始める三人。
極めつけにモテ男が、
「ミーナは真面目だな。
俺の〇〇〇の扱いも真面目に練習してくれてるし。
ニーナはどうだろうなあ。
稽古で剣を振るよりベッドで腰を振る数の方が多いんじゃないか?」
「それは先生のせいじゃん! エッチ!」
あーもう死ね。
死んじまえ。
ちょっとでも感謝したのが悔しいわ。
弟子じゃなくてセフレだろうがこんなの。
うらやまけしからん過ぎるっての。
一気にやさぐれた気持ちになった僕はコップの水に口をつけチビチビ舐めた。
「おい! 弟子を相手に何をしているんだ!
ふしだらにもほどがあるぞ!」
レクシーがテーブルを叩いて立ち上がった。
そうだ、もうやっちまえ。
この場で首落としちまえ。
「バーカ。修行中溜まるのは男も女も一緒。
適当にヌイてやらないと修行に身が入らんだろうが。
だいたい、お前だって修行中に兄弟子だった俺とヤッてたじゃん」
「「なっ!?」」
レクシーと同時に声が漏れてしまった。
このモテ男とレクシーが……
「ええ〜〜〜っ!
先生この人ともしてたんですか!?」
「昔のことだって。
まだ19の頃だっけな。
良家の娘だったからかまだ処女だったし、今よりかは可愛らしくてつい喰っちまった」
「お、おい! やめろ!」
レクシーが顔を真っ赤にしている。
声もうわずっていて動揺しているのが見てとれた。
僕にも分かるくらいだからモテ男が気づかないわけがない。
ニヤリとイヤな笑みを浮かべて歯並びのいい唇から毒矢のような言葉を放つ。
「殴られようが斬られようが一切泣き言言わないお前が「痛い痛い」って泣きながら縋ってきたのは唆るものがあったな。
まー、顔とカラダはともかく抱いていて楽しいもんでもなかったから数えるくらいしかしてないけど」
「お前ぇっ……!」
今にも斬りかからんばかりのレクシーだったがモテ男は続ける。
「そんな風に困ったらすぐ暴力に出るような性格だから他人とコミュニケーション取れないんだよ。
悔しかったら俺が〇〇〇使ってるみたいにお前も×××使って弟子取ってみろよ。
ま、お前のことを知ってるやつは怖くて抱けないだろうがな。
ねじ切られたら困る……プッ……ギャハハハハハハハ!!」
高笑いするモテ男。
レクシーはプルプルと頬を震わせて今にも泣き出しそうな顔をしている。
剣の腕は立つけど実のところヘタレで口喧嘩は弱いなんてありがちなギャップ持ちやがって。
萌えるじゃんか。
「おい」
「ん?」
僕は手に持っているコップの中の水を投げつけるようにして、バシャアッ! とモテ男にぶっかけてやった。
濡れそぼったモテ男は何が起こったか分からないような顔をしていたが憎悪を剥き出しにして僕に向かって怒鳴る。
「なにしやがる!!」
「余裕で抱けるだろうがあ! クソ雑魚ヤリチンがっ!」
『ヤリティン』の名にかけて、こんなヤツに負けたくないと強く思った。
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