第24話 元童貞、試合後に女を抱く
「勝者ぁぁっ!!
テェェェリィィィイウスゥゥゥゥ!!
強い強い強すぎる!!
この実力は本物だアアアアアアアッ!!」
僕は二回戦も圧勝しベスト4まで進出した。
控え室に戻るとレクシーはドヤ顔で腕組みしながら僕を迎える。
「さすがだな、少年。
初めての試合だというのに実力を遺憾なく発揮できているぞ」
「普段、あなたと組み手をしていれば……
並の相手じゃ雑魚に思えますよ」
「油断するなよ。
次の相手は今までとは格が違う」
数分後、僕の次の対戦相手である彼女は一瞬で相手を打ち倒し、控え室に戻ってきた。
「次はアンタか……
アンタを血祭りにあげて、ニーナのバカを裸にひん剥いて転がしてやったら……先生は私を弟子に戻してくれるかな?」
幽鬼のようにじめっとした殺気を漂わしているミーナを見て思わずため息をつく。
「あんな男のどこがいいんだ?
多少見た目が悪くても男は優しくて一途で堅実な職業についている方がいいぞ」
思わずお父さんのようなおせっかい発言をしてしまう。
当然、彼女には響かないが。
「先生はね、優しくないし女好きかもしれないけど、一緒にいると胸がドキドキするの。
生きてるって感じられる。
あの人なしじゃ私は生きる意味なんてない」
「じゃあ僕に試合で負けたら君は死ぬのか?
冗談じゃない。
自分の価値を分かっていないんだから、それが分かるまで自分を粗末にするなよ」
「アンタに何がわかる……」
「君が美少女でその気になれば男を選び放題ってことくらいかな。
僕だってフリーだったら立候補したい」
「…………穢らわしい!」
褒めたのに悪態吐かれていなくなっちゃった。
やっぱ女子と喋るのって難しい。
「……あたしも、アイツにフラれたあとはしばらくあんな感じだったのかな」
レクシーがボソリと呟く。
「師匠も落ち込んだんですか?
女性冒険者の自己肯定感の低さはなんなんですか?
あんな明らかに悪そうなヤツに」
「純情を捧げた相手とあれば、くだらない男でも価値を持たしてやりたくなるのさ。
男の欲望の捌け口にされたよりかは、自分は純粋な気持ちで恋をして結ばれたって思っていた方がみじめにならなくて済む」
遠い目をするレクシーに僕は少なからず苛立ちを覚えた。
今はもうあのモテ男のことなんてなんとも思ってないだろうし、口説かれたとしてもなびくはずがない。
それでも彼女の心の内を絵に描いたならば、隅の方にあのモテ男に抱かれた思い出が描かれるのだろう。
塗りつぶしたい。
下に何があったか分からないくらいに濃い色で。
「ついに準決勝!!
かたや優秀なベテラン指導者に愛でられ磨かれ下馬評通り華麗な活躍を見せる美少女!
かたや師匠に貼られた指導者失格のレッテルを剥がすような快進撃を見せる美少年!
勝負の行方はどうなるのかぁぁああ!!」
ミーナは自分の体より長い槍を使うらしく、頭上で風車のように回したりして技のキレを誇示している。
僕より長い間研鑽を積んでいる分、技量では勝てないだろう。
一方、僕の武器はちょうど腕の長さくらいのショートソード。
使いやすく僕の身体能力を活かすのに適しているとレクシーが選んでくれた。
リーチでは比べ物にならないが間合いに入り込んでしまえば僕が有利になるはずだ。
「試合始めぇぇぇぇぇっ!!」
まずは————っ!?
試合開始と同時にミーナが攻め込んできた。
勢いよく突き出された槍をなんとかかわすが避けることを知っていたかのように、横に薙いで僕の脇腹を打った。
「ガッ!?」
当たったのは槍の柄の部分。
槍なんて穂先に当たらなければ大したことはないと思っていたがとんでもない。
柄の部分まで金属で作られているそれは鉄パイプの一撃と同様。
いや、長さがある分遠心力でしなりながら放たれる一撃は十分人を破壊できる技だ。
怯んだ僕を串刺さんと放たれる渾身の突き。
反射的に剣で受けてなんとか攻撃を流す。
「今のを避けるんだ。
なかなかやる…………けど!」
ミーナの猛攻が続く。
絶え間なく振るわれる槍の連撃は不可侵の結界のように彼女に近づくものを容赦なく打ち据える。
凌ぐのがやっとで近寄ることすらできない。
そして、こっちはさっきいいのをもらってしまっている。
このまま時間切れまで同じことが繰り返されれば判定で負けてしまうだろうし、よしんば勝ち進めても体力までは治癒魔法で回復できない。
相当消耗した状態で決勝戦を迎えることになる。
それは避けたいので、
「随分、飛ばすじゃないか!
決勝で当たる妹弟子のことわすれてるんじゃないか!」
「!? ニーナの方が姉弟子だ!
いっつもいっつも!
アイツの方が可愛がられて!」
ミーナは癇癪を起こし怒鳴り散らす。
怒りでパワーアップとはならず、気が逸り鍛え上げられた槍技が乱れ、鉄壁の防御に綻びが見え始めた。
僕はそれを見逃さず、剣で穂先を打ちもう片方の手で柄を掴んだ。
「掴まえたぞ!」
「チッ!」
ミーナが強く舌を打つ。
明らかに焦っていることが見てとれた。
試合の前にあんなヒドイ別れ話をしていたんだ。
メンタルぐっちゃぐちゃだろ。
だけど、こっちも負けるわけにはいかないし、できるなら体力を温存するためあっさり決着をつける必要がある。
……となれば、僕のこの忌まわしい力に、『ヤリティン』のアビリティを使うしかない!
「試合前にも言ったけど、あの男はやめとけ」
「アンタには分からない!」
「分かってるさ。
初めての恋に舞い上がって男はこの世にアイツしかいないとか思っているんだろ。
そんなことはない。
実際、アイツは君がいなくても何も困らないし別の女を弟子に取るだろう」
「……それでも、わたしはっ!」
僕は一歩踏み込んで、ミーナの耳元で囁く。
「僕だってアイツの代わりになれる。
この試合が終わったら君を抱いてあげるよ」
『ヤリティン』は女誑しの英雄。
10000を超える女性をモノにしたそのセックスアピールは洗脳といっても過言ではない。
僕の仮定ではその伝承が天職のアビリティとなっている。
だから、僕に誘われたミーナは、
「なっ…………な、な、なななななにを言ってる!!
しっ、試合中だぞ!!」
顔を真っ赤に染めて狼狽える姿は年相応の少女らしい様子。
多分、口では拒んでいるが『ヤリティン』のアビリティでメロメロのビショビショになっているんだろう。
ツンデレ美少女…………惜しいけど、
「そう。じゃああきらめる」
「はっ!?」
僕は肘鉄をミーナの延髄に打ちかます。
意識を断ち切られたミーナはくらりと揺れて床に倒れ込んだ。
「勝者っ!! テェェェリィィィイウスゥゥゥゥ!!
見事っっ!! 決勝戦へと進出ぅぅぅっっ!!」
勝ち名乗りを背に受けながら僕はしゃがみ、気絶したミーナを抱き上げた。
……嘘はついていないぞ。
試合が終わって、君を抱いた。
「勝者が敗者を労るように!
その身体を抱えて武舞台を去っていくぅっ!!
圧倒的に紳士!
高潔さここに極まれり!
テリウス!! お前はどこまで魅せてくれるんだぁあああ!?」
熱狂的な実況に加えて、観客も万雷の拍手を僕に送ってくれる。
コイツら、僕が試合中にセクハラかまして動揺を誘ったと知ったら手のひら返すんだろうな〜なんて思うと、賞賛も薄寒く思えてしまう。
むしろ、この試合を見ていたモテ男が苦虫を噛み潰すような顔をしているのを見た時の方が胸がすく思いだった。
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