第4話 童貞、天職を知る
人と神が共に大地で暮らしていた神代と呼ばれる時代。
神から力を授かった英雄と神に成り代わろうとする闇の勢力との闘いが繰り広げられていた。
『ヤリティン』は貧しいの人間の子供として生まれた。
その姿形は人の子とは思えないほど美しく、また彼自身もそのことをよく理解していた。
惨めな暮らしから這い上がるには自分の美貌を利用するしかないと考え、齢10歳の頃に毒婦と名高い呪術師ジャロメを相手に童貞を捨てた。
ジャロメはヤリティンの才能と野心を見抜き、彼を使って世界に混沌をもたらすために褥の上での手練手管を余すことなく伝授した。
ヤリティンは元の美貌に加えてジャロメから授かった女を悦ばせるテクニックを駆使することで、何百何千の女達を籠絡し、ついには処女神であったディアナの貞操までも奪った。
ディアナを推していた童貞神達は怒り、ヤリティンを抹殺しようと77の獣をけしかけるもヤリティンは籠絡した女達から武具や魔法を伝授されており、獣達を返り討ちにした。
その強さとモテぶりに手を焼いた神々はヤリティンに年中果実が実る
「これがヤリティンにまつわる神話です。
そしてあなたにはヤリティンとなれる才能があると鑑定結果が出たのです」
「いや……なるべき才能と言われても……ほら、父上の領地を継ぐ役目もあるわけだし」
「おやめなさい。
何十年かにひとりヤリティンの天職を授かる者がいたらしいですが、権力者になったヤリティンで失脚しなかったものはおりません。
みな性的スキャンダルを起こして悲惨な末路を辿っています」
「なに、こっちにも写真週刊誌とか暴露系インフルエンサーいるの?
いやいやいや、いくらなんでも全部失う覚悟で女遊びなんて……自重しますし」
「本当に? 生涯で妻一人だけしか抱かないと約束できますか?
しかもあなたが選ぶことはできず、お父上が選ぶ相手と一生」
「………………だ、だいじょうぶ……ですよ」
いやだ。
貴族学校に行ったら上級生とも下級生とも先生ともシタい。
夕暮れの教室とか晴天の屋上とか体育倉庫とかいろんなところでいろんなことシタい。
結婚相手は吟味して選びたい。
できれば側室も6人は欲しい。
曜日替わりで違う妻とシタい。
可愛い使用人に手をつけたいし、踊り子や歌い手とも一夜限りの関係を積み重ねたい。
年老いてジジイになっても若い女とシタい。
40歳くらいの熟女を若い娘扱いしてシタい。
せっかく転生したのに禁欲なんてまっぴらだ!
でも、ここはそんな素振りを見せずに……品行方正なテリー坊やを演じるだけさ。
大丈夫、ここさえ乗り切れば————
「テリー……お前をバージニア家から追放する」
「父上えええええ! ちょっと待ってよ!!」
いきなり追放系ルートに舵を切り始めた父上に詰め寄る。
「こんな得体の知れない女の言うことを信じるんですか?
ヤリチンとか連呼しているんですよ!」
「ヤリティンです」
「うっさい! アンタは黙ってろ!
そもそもこの女が我が国に不和を撒くために現れた間者でないと言えるんですか!?」
「たしかにその可能性もある……だが、お前がヤリティンであるならばこの狭い領地では物足りんだろう。
広い世界に飛び出し、その天職にあった生き方をしてほしいと思うのも親心だ」
「いやいやいやいや、ヤリ⚪︎ンの生き方なんてろくなもんじゃないだろ!」
「ヤリティンです」
「親子のシリアスな会話に茶々を入れるな!」
この後、しばらく父上を説得しようと試みたが、父上は頑なに「お前のためだ」と言って譲らず、僕は家を出ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます