第5話 童貞、家を出る
「我が息子テリウスの門出に、神の祝福を!」
あの鑑定が出てから三日後の朝。
僕は屋敷の玄関で父上や弟、それから使用人達に見送られて家を出ようとしていた。
「父上……考え直すなら今ですよ……」
「くどい! お前も男ならば天職を責務を全うせよ」
「ヤリチンの責務ってなんだよ!
あんな胡散臭い鑑定士の言葉に転がされて嫡男を追放するとか耄碌しすぎだろ!」
「追放ではない。
家のことは弟たちに任せて50年ほど修行に出ろと言っているだけだ」
「もはや出家じゃないか!
だったら自由なだけ追放の方がマシだ!」
上品で礼儀正しいテリー坊やの仮面はすでに地面に叩きつけていた。
今となっては『鑑定の儀』の前に僕の天職を鑑定しておいたのは英断だった。
僕だって民衆の前でヤリチン呼ばわりなんてされたくなかったし。
とはいえ、僕の人生設計が大きく変わったのは事実だ。
厳格で母上が死んだ後、再婚はおろか愛人の一人も作らない父上からすれば息子が『ヤリティン』なんていう破廉恥な天職を授かったことは我慢ならないのだろう。
とはいえ、親交のある騎士を頼って騎士団への入団を目指すという名目で単身王都に向かわせるなんて厄介払いもいいところだ。
騎士団なんて響きは良いが所詮は職業軍人の集まり。
女っ気なんてないだろうし偉い人の命令は絶対で文句ばっかりつけてくる民草を命懸けで守らなきゃならないブラック職場だ。
ぬくぬくイージーモードの貴族令息の日々が終わってしまう……
「そう嘆くな。
お前は真面目だし、根性もある。
修行すれば立派な騎士になれるさ」
「そんなに僕を信用してくれているのなら、なんで二日前から屋敷にメイドがいないんですか?
住み込みのメイドまで全員出払っていますよね?」
「……どうして、メイドが全員いないと分かったんだ?」
「うっ!?」
どうせ最後ならと、僕に甘いメイドのお姉さんを夜這いをかけたけど全員部屋にいなかったからです。
……しかし、ここまで警戒されてしまってはなんとか家に残ったとしても針の筵だろう。
もう開き直るしかないってことだ。
「…………分かりました。
バージニア家の名に恥じぬよう騎士団で名を上げます。
王都にお越しの際には親孝行させていただきます」
10年以上真面目な良い子を演じていれば、優等生的な振る舞いも染み付いている。
ちゃんと育ててくれた父親と少しでも良い別れをしたいというのは本心だ。
「……我が自慢の息子よ。
そなたに栄光があらんことを」
父上は涙ぐみながら僕を抱きしめた。
その光景を見て見送りに来ていた使用人達はもらい泣きをしていた。
メイドさんは一人もいないけど。
まあ、なんとかなるだろう。
名前と逸話が酷いとは言え『ヤリティン』は英雄の名を冠した天職。
実感はないけれどすごい力があるはずだ。
ミアが話してくれた神話におけるヤリティンは神々の嫉妬を買うくらいに多くの美しい女性たちと関係を持って好き放題した挙句、最終的には楽園に彼女らを集めてハーレムエンドを迎えたという。
男として羨む限りの人生だ。
天職が司る運命が僕を乗せて進んでくれるのなら、この王都への旅にも何か意味が生まれるのだろう。
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