第18話 元童貞、嫉妬する
「ああっ! ミアっ! ミアっ! そんな、激しいっ……うっ…………」
ランベルの街は古くから宿場町として栄えた街だ。
隣国との国境線に近く王国の玄関口と比喩されているくらい商人も軍隊もこの地を経由する。
旅人が休息する宿屋に加えて英気を養うための酒場、そして娼館が立ち並んでいる。
ふとっちょがいたなら娼館の約束を果たしてもらうところだったが、生きていたとしても前の街に向かって引き返していることだろう。
仕方がないので宿を借り、ミアを思い出しながら二人紡いだ愛欲の日々をオカズに自分自身を慰めたのであった。
「ふぅ……生きてるって素晴らしいな」
生を実感しながらありがたみを噛み締めていると、ドンドンドンドン!
「少年! 一休みはできたか!?
できたのなら酒場に行くぞ!」
レクシーが猛烈な勢いでノックしてきた。
こちとらアンタに欲情してしないように処理したってのに気楽なもんだ。
中身は陽のコミュ障といった感じの少し残念味のあるお姉さんだが見た目はグンバツ……
「今なら洗剤つけときますよ〜」的な感じでカラダ差し出されて弟子入りを懇願されたら断り切れる自信ないからな。
……いや、アホな妄想だとは思うけど僕の天職は『ヤリティン』。
そういうエロ漫画的シチュを引き寄せる能力(アビリティ)があってもおかしくない。
抗うには耐性をつけなくてはならない。
その耐性をつけるための方法はいたってシンプル。
「事前に抜いときゃいいじゃん!」って話さ。
やはり、こんなにも冷静で紳士的な僕の天職が『ヤリティン』だなんて間違っている、と思う僕ガイル。
で、そんなこんなを終えた後、酒場にて僕は食事にありつきながらレクシーの勧誘を受けていた。
「で、だ。キミがあたしの弟子になればその間の衣食住は保証しよう。
もちろん修行を終えた後であればどこの冒険者ギルドでも通用するだろうから一生安泰だ!」
胸を張って自信満々に言い放つレクシー。
しかし、僕は若干冷ややかな気分で聞いていた。
冒険者稼業は軍隊を動かすほどではない状況に対して、民間で対処するための組織。
現代で例えるのであれば民間警備会社兼何でも屋という業態である。
もっとも社会的地位は暴力団さながらであり、民間活用できる暴力装置として社会機能の一部を担ってはいるものの世間からは恐れられている存在だ。
常人の何倍もの力を持ち武装している人間が危険じゃないわけがなく、また増長するのも必然。
ギルドの統制を受けていても冒険者による犯罪は後を絶たない。
そこらの事情はこの旅の中でふとっちょに聞かされていた。
食いつなぐためならまだしも、わざわざ堅気の道を踏み外すことはない。
「せっかくですけど、僕はこれから王都に参って騎士団に入る予定なんです」
「騎士団? まさか、キミは強力な天職を授かっていると分かっているのか」
「な、なんでここで天職の話が……」
「そりゃあ騎士団に入るには推薦状が必要だろう。
推薦状をもらうなんて何かしらの偉業を成した場合か、鑑定によって高位の天職が認定されているくらいのもの。
あとは……まあ、貴族のお坊ちゃんなんかをコネで入れる時くらいかな」
この人、意外と事情通なのか。
だとするとマズいな。
僕の天職は『ヤリティン』……あまり女性に聞かせるようなものじゃない。
ドン引きされるだろうので勧誘を断るにはいいけど。
「天職はおいといて、そうなんですよ。
僕、実は貴族の子なんですよ」
「貴族の子がどうして従者も連れずに一人旅を?」
天職が『ヤリティン』だったので追放同然の扱いを受けているからです————って堂々巡りじゃないか!
「さ、さあ? 父上が強くなってほしいとか考えたんじゃないですかね?」
「ふんわりした物言いだな。
まあ、そういうことなら無理強いはできないか。
惜しいんだがな……」
大きなため息を吐いてレクシーは肩を落とした。
何がそんなに光って見えたのかは知らないが、ここまで惜しがってもらえること自体は悪い気分ではない。
とはいえ、冒険者稼業に巻き込まれるのはゴメンだし、厳しいシゴキに耐えられる自信もない。
「申し訳ありません」
「いや、謝ることはない。
きっとキミなら良い騎士になれるだろう。
貴族はコネがあるみたいな話はしたが、領主自ら推薦状を書くのだ。
良識のある貴族であれば見込みのない者を推薦したりしない」
「だったら、一安心ですね。
父上は厳格なお方だったので推薦状も————あ゛っ!?」
……今さら、とんでもないことに気づいてしまった。
父上の書いた推薦状は僕の身分を証明してくれる唯一の書類でもあった。
だから万が一にも落とさないように服の内側に隠すように縫い付けていたんだけど、その服ごとケイティとあの男に剥がされてしまっているじゃないか!?
つまり、僕をバージニア家の者だと証明する物は無く騎士団にも入れないってことじゃないか!?
顔パスってわけにはいかないだろうし……マズすぎる!!
と、僕が頭を抱えていた時だった。
「あれっ? これはこれはAランク冒険者のレクシー様じゃないですか。
ずいぶん若い男を飼っているんですね」
イヤミったらしい口調で話しかけてくる男が現れた。
するとレクシーの表情が瞬時に曇る。
顔を上げた僕の視界に映ったのは端正な顔立ちをした長身の男。
その両脇には押し付けるように体を寄せる美少女が二人。
一目見た瞬間に僕の心に黒い火がついた。
間違いない、嫉妬だ。
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