第17話 元童貞、誘われる
「あたしの名前はレクシー。
とりあえずだ、少年……キミを弟子にしてあげよう」
「はい?」
ゾンビ達をバラバラ死体にした彼女ことレクシーは息を吐く間も無く、僕を勧誘してきた。
「ハッハッハッ。光栄に思えよ。
この国で私ほど腕の立つ武芸者はそういないからな」
「いや……助けてくれたのは感謝しますが、展開が早すぎて……別に僕は師匠を探しているわけでは」
「師匠!?
なかなかシブい言い回しをしてくれるじゃないか〜!
うん、よーく見れば上品で教養深そうな顔をしている!
あたしの下で修行すればきっとすごい英雄とかになれるぞ!」
あ、この人ってお調子者だ。
見た目は格好良い系なんだけどな。
大きく切れ長の翠玉(サファイヤ)の瞳に彫りが深く形の良い鼻梁。
頬や二の腕には刀傷と思われる傷跡がいくつか残っているものの痛々しくはなく、逆に彼女の凛々しさを彩る装飾のようにすら見える。
ビキニアーマーとまではいかないが必要最低限の部位だけを残すように軽量化された鎧を纏う肉体は引き締まっており二の腕、腹部、太ももの肌を露わにしているがいやらしい感じではなく、アスリートのように均整が取れていて美しい。
まあ、それはさておいて、
「こういうのって普通強くなりたい側が強い人に弟子入りを求めるものであって、強い人が自分の教えを押し売りするようなものではないと思うんですけど」
「ハッハッハッ、正論を棍棒代わりに殴りつけてくるタイプなんだな、キミは……まあ、たしかに武芸者にとって弟子を取るなんてのは本分から外れる仕事だ。
だが、私にはどうしても弟子を育てなければならない理由がある!」
「理由……ですか」
弟子を取るのを急ぐ理由……
時間がないからだろうが、その原因はなんだ?
もしかすると余命がわずかしかなくて死ぬ前に自分の技を伝授したいなんて悲壮な覚悟があるのだろうか。
でも……それよりも……
「と、とりあえずこの場所から脱出しません?
噛まれてはないけど結構ボロボロで……」
「うっ、そういえばキミは要救助者だったな。
弟子を育てなければならない理由については道すがらに話そう」
「あ、その話は続くんですね————おおっと!?」
レクシーはヒョイッと藁でも持ち上げるかのように軽やかに僕の体を背中に担ぐ。
「お、おんぶですか?
歩けないほどやられているわけじゃ」
「でも、あたしについて来れるほど速くもないだろう。
よーくつかまって…………なっ!」
ドンッ! 轟音を立ててレクシーは走り出した。
その速度は馬と比べても遜色がない……どころか、馬より小さな女性の体の上で感じる高速は想像を絶する迫力だった。
「ぎゃあああああああ!! 速い速い速い!!」
「フフッ、すぐ慣れるさ。
まず、私が武の道を歩み始めたのは」
「道すがらの話も一緒にやるの!?」
ウ⚪︎娘のように二足歩行にあってはならない猛烈な速度で走る彼女は僕を背に乗せたまま、身の上話を始めた。
要点をかいつまんで言えば、レクシーはそこそこ裕福だった家が没落した18歳の時に冒険者になったらしい。
元々、家の方針で本格的な稽古をつけてもらっていたこともあってすぐに冒険者として頭角を表し始め、20歳の時には超人じみた力を持つ者しか選ばれないAランク冒険者となった。
Aランクの冒険者はそれ以下のランクでは大きく隔たりがあり、受ける依頼の多くは軍隊を持ち出しても解決できないヤバい依頼ばかり。
この森に来たのも動物に噛み付くことでゾンビ化させることができる危険指定のモンスター『リッチー』を追ってきたとのこと。
ちなみにそのリッチーは僕が首を落とした青白ババアのことである。
実際、ゾンビが大量発生すれば並の冒険者では歯が立たないことは思い知っていたし、そんな敵をものともしないレクシーが規格外だということも分かる。
だがしかし……
「どうして弟子が集まらないんですか?
すごく強いし、人柄も良さそうなのに」
スピードに慣れてきた僕はレクシーにおぶさりながら尋ねた。
「集まらなかったわけじゃない。
弟子を取ろうと決めて冒険者ギルドを通して募集をかけたこともあったし、その時は列をなすほど志願者がいたものさ」
そうだよな。
何事も上手い人から習うのが上達の近道だ。
加えて、レクシーはちょっとお調子者な感じはするが気さくだし、なにより美人だ。
のぼせ上がった荒くれ者達が良いところ見せて力も女もゲットしようとか考えそうなものだ。
「じゃあ、これまで弟子を取ったことはあるんですね」
「…………そうだよ(小声)」
いきなり小声になった。
この感じは……知ってる。
「最長でどれくらい持ちました?」
「…………2日」
「経歴詐称で訴えますよ」
やっぱりな。
前世でアルバイトの面接した時にやってきた華々しい経歴のオッサンと同じ匂いがしたんだ。
「だって……みんなえらく自信に満ち溢れていたから、かる〜くシゴいてあげたらすーぐ音を上げちゃって」
「絶対軽くじゃないでしょ。
おんぶされてるだけの僕でも察するモノがある」
超人的な力を持つ彼女のシゴき……それはそれは凄まじいものだろう。
エッチな意味でシゴいてくれるのなら大歓迎なのだが……いかんいかん。
死にかけた後の安堵感と女体と密着している快感が溢れて思考が汚れてきた。
「窮地から脱するとシタくなるって本当なんだな」
「何をしたいんだ? 少年」
「…………食事的なやつ」
「ああ、そうだな。
街に着いたら私が奢ってやろう。
なんでも頼んでいいぞ」
ん? いま「なんでも」って言った?
誰か僕を止めてくれ!
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