第9話 童貞、捨てる神あり

「えっ?」

「いきなり不躾だとは思うが、俺はアンタに欲情している」

「よくっ!? こんな顔も分からない女を相手に……若さとは節操がないものですね。

 こんな鶏ガラのような細い身体、魅力的でないと自分でも思いますが」


 たしかに細い。

 手脚も胴も首も細く、胸も薄い。

 だが、ランプの淡い光に照らされた赤銅色の肌は艶かしく、戸惑う瞳は少女のような煌めきを溜めている。


「アンタがどう思うが関係ない。

 僕はアンタを抱きたいんだ」


 手首を引いてミアをベッドに引き込んだ。

 僕に跨がるような体勢になった彼女は戸惑いながらも僕の身体を舐めるように見始めた。

 その様子は品定めをしているようにも見えた。


「その……あなたのような少年に迫られたのは初めてです」

「僕も女性にこのように迫ったのは初めてだ」


 前世も含めてな。

 まともな恋愛経験も積めていない僕にはこんなやり方でいいのか分からない。

 使用人であるメイドならばともかく、ミアは旅人で僕に従う義理なんてないし、今の僕は無職童貞の一文なしだ。

 ……冷静に考えてみれば「なにサカってんだ? このクソガキ」って状態だな……

 そもそも向こうは聖職者だし。

 無理筋すぎたか……ああ、消えてえ————


「フフ、物好きなお人ですね」


 微かに笑ったミアはマスクを外し、その素顔を僕に晒した。

 隠されていた鼻梁は小ぶりではあるが綺麗に整っており、桜色の唇は瑞々しくぷるんとしていた。

 想像していたよりも若い、というより幼い顔立ちで10代前半の少女にも見える。

 似たような感想をみんなが持つだからだろうか、ミアはため息混じりに、


「言っておきますが、あなたの想像する倍くらいの年齢ですよ。

 不釣り合いだとよく不気味がられます」


 と、自ら合法ロリであることを白状した。

 僕にロリコンの気はないが今自分の体が少年だからなのか、幼い彼女の容貌でも十分に興奮しきっていた。


「全然構わない……です。

 どうか、お願いします。

 抱かせてください」


 頭を下げて、懇願した。

 ミアは「クスクス」と口元に指を当てて笑う。

 細めた瞳に長いまつ毛が生え揃っているのを見て、あらためて「美しい人だ」と実感した。


「焚き付けてしまったのは私ですからね。

 いろんな意味で」


 ミアはベッドの上に立ち上がり、僕の目の前で衣服を脱ぎ捨てた。

 くすみのない褐色の肌がランプの光にヌラヌラと照らされ輝いている。

 初めて見る生の女の裸に僕は感動にも似た感情を抱いていた。


「良い……ってこと……ですか?」

「それを聞くのは野暮というものですよ。

 まあ、そのあたりは後に学ぶこととして」


 ミアは僕の胸をトン、と押して寝かせると僕の腹に跨り、布越しではなく素肌同士を擦り付け始めた。


「僭越ながら、私が初めてのお相手を務めさせていただきます。

 稀代の毒婦ジャロメがヤリティンにしたように、悪いことをたくさん教えてさしあげます」


 蠱惑的な笑みで僕を見下ろすミアは年相応の妖艶さと見た目のあどけなさが混在しており、とてつもないほどにエロティックだった。

  

「あなたは毒婦じゃありませんよ……僕にとっては女神様です」

「おだまりなさい。軽々しく神を語ってはなりません」


 聖職者の地雷を踏んでしまったらしく、ペシっ、と頬を打たれた。

 ヒゲ面の時も似たような失敗したな————と思い出していると打たれた頬にミアが吸い付いてきた。


「あっ!? あっ! み、ミアっ!?」

「あむっ……女々しい声出さないでください。

 んっ……男の子でしょう」

「だ、だって、激しい————んむっっ!」


 僕の唇を唇で塞ぐと貪るように舌を捩じ込んできた。

 想像していたよりも激しく荒々しい初夜が訪れる気配に僕は戸惑いながらも脳味噌が爆発するほどに興奮していた。

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