第11話 童貞、旅に出る

 僕の名前はテリウス・フォン・バージニア。

 バージニア男爵家の跡取りだったけれど『天職』が『ヤリティン』とかいう大昔の英雄(好色家)にまつわるものだったため、父親から家を追い出されてしまった。

 その後、身包み剥がされたり行き倒れたり苦労はあったけれど、俺の『天職』を暴いた鑑定士ミアに拾われてその場の勢いで童貞を奪われるなんて素晴らしいことがあったりして…………今、どうなっているかというと、


「旅なんか出たくない……ずっとミアとエッチなことばかりして暮らしたい」

「それこそ宝の持ち腐れですよ。

 旅に出たらもっと素敵な女性とデキますから頑張って」

「ミアより素敵な女なんて……」

 

 旅に出たくなくて駄々をこねる僕をミアはずっと宥めてくれていた。

 

 ミアは服だけでなく、旅に必要なアイテムや路銀まで僕に融通してくれた。

 近いうちに鑑定の儀が行われるのでその報酬でなんとかなるとは言ってくれたが、かなりの大金を僕にかけてくれたのだ。

 ここまでしてくれたのに旅立ちを拒むというのは不義理と言われても仕方ないが、あんな気持ちよくて満たされることを教えておいてリリースするというのも殺生な話だ。


「うう……かといって、このままミアと一緒にいてもヒモ男まっしぐらだろうし……そもそも父上にバレたらぶった斬られてもおかしくないだろうし」

「さすがよくわかっていますね。

 では、行きましょう。

 目的地は当初通り王都ですよ」


 ミアは荷物を押し込めるようにして王都に向かう乗合馬車に僕を乗せた。


「ミア、君も旅をしているんだろう。

 僕と一緒に来ないか?」

「何度も申しましたでしょう。

 あなたは私ごときに囚われてはならないのです」


 最後のあがきと思って口説いてみたがこのざまだ。

 仕方ない。

 こういう時こそ僕のあきらめの良さを有効に使っていくべきだろう。


「分かった。

 でも、本当にありがとう。

 もしこの先、僕が何かを成し遂げられたとしたら、それは君に会えたおかげだ」

「……光栄にございます」


 ミアはそう言って瞳を閉じた。

 マスクをしているのでそうされてしまうと全く表情が読めない。

 照れ隠しとかであることを祈る。


「今は旅の中に身を置くべきです。

 様々な人との出会い。

 代え難い経験、それから得られる感動、葛藤。

 この世のすべてはあなたを育むためにある。

 ……そして、立派な大人になった暁にはご実家に立ち寄ってください」

「追放同然で追い出されたのに?」

「……親子の縁は切れぬものです。

 それに英雄の凱旋ですから、領内総出で歓迎祭が開かれることでしょう」

「そんな日が来るといいな。

 じゃあ……また、会おう」


 馬車が動き出す。

 ミアはその姿が見えなくなるまでずっと僕のことを見送ってくれていた。



 この馬車は王都を目指す。

 途中7つの街を経由し、10日後には王都に着く予定である。

 

 街から街までの間でモンスターや野盗に出くわすこともある。

 護衛のために冒険者と呼ばれるヤクザまがいの傭兵を雇ってはいるが、彼らより強い敵が攻めてくる可能性は十分にある。

 現代日本と違って、この世界の旅は命懸けだ。 

 

 だけど、僕の気持ちは晴れていた。

 ミアと別れたことは悲しくて惜しいけど、念願の童貞も卒業させてもらったし、大切なことに気づけた。

 だからようやく自分の望んでいることが見えた。


 僕はこの世界で冒険がしたい。


 攻略方法どころか自分のことすらわかっていないこの小さな身で生きて、生き抜いてやる。

 もっと強くなって、大きな仕事をして、人々に感謝や尊敬の念を向けられ、たくさんの良い女を抱く。

 やりたいことをあきらめず追い求め続ける。

 そんな生き方がしたいんだ。

 

 馬車の荷台に揺られながら見上げる空は青く澄み渡っていた。 

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