第31話 師匠と弟子はベッドの上で逆転する

「元々、気に入ってはいたんだ。

 真面目で義理堅いところとか、そのくせ要領のいいところとか。

 戦いの才能もあるし、実力も相応に伴っている。

 見た目も嫌味がなくてスッキリと整っているしな。

 もし、同年代で出逢っていたなら初恋は君にしていただろうって思えるくらいには、良く思っていた」

「それだけ良くても年齢は壁になるんですね」

「そりゃそうだろう。

 あたしは君の倍の年齢なんだぞ。

 男女が逆ならばまだしも」


 20代後半の男がJCに懸想していたら文句なしに警察案件だって。

 現代日本の感覚ではね。

 ああ、だからか。


「だから、僕に服を買ったんですね。

 少しでも大人びて見えるように」

「…………」


 レクシーは気まずそうに黙秘を貫く。

 こういうところ、僕はかわいいと思う。


「さて……陽も暮れましたし、師匠も服破っちゃいましたし、今日はそろそろ帰りますか」

「ああ、そうだな」


 レクシーは僕に回していた腕を解いた。

 彼女の身体が離れた後も感触や香りが残っていて、それを逃すまいという衝動に僕は突き動かされる。


「あの……今夜は師匠の部屋に行ってもいいですか?」

「えっ!?」


 レクシーは一瞬、驚いたように目を見開いたが、


「あぁ、構わないぞ」


 と平静を装って答える。

 それから並んで歩き出した僕たちは、どちらからともなしに手を繋ぎ、僕は戯れるように指を絡めていった。







 

『ヤリティン叙事詩第二幕より〜虎か、レクシーか〜』 


 おお、ヤリティン♪

 ヤリティンティン♪

 ヤリヤリティンティンヤリティンティン♪

 これはヤリティンがいと高き師匠に男を教えたときの歌♪


 

 虎よ虎よ。

 獣たちの上に君臨する偉大なる女王である雌虎よ。

 その爪は大木をも切り裂き、その顎は岩すらも噛み砕く。

 されどその勇姿はたしかな雌のかたちをしており、鎧のような筋肉とは別に柔らかな白い果実をぶら下げ、くびれた腰は子を産む形になっている。

 獣たちは憧れ畏れ、穢してはならぬ神聖なるものと崇めている。

 そんな彼女の脚の付け根には醜い噛み傷が。

 まだ若き日に卑怯な雄狗イヌに噛まれた傷であり、後悔の象徴。

 故に彼女は雄を傍におかず、孤高の日々を送っていた。

 そんな彼女の元に狼が現れた。

 まだ幼く、仔犬と変わらぬ小さな狼。

 されどその瞳には猛獣をも上回る野生が宿り、立ち姿はバラのように優雅で美しい。

 なにより神聖なる彼女に畏れを抱かず愛を以て吠えてきたことが女王の心を動かした。

 その夜二人は牙をぶつけ合う。


「あまり期待するなよ……

 久しぶり、というかアイツ以外知らないんだから」

「狗に噛まれたのなんて数に入れないでください。

 アイツのことなんて忘れさせますから」


 狼は甘く囁き虎を押し倒すと早技でその腹を晒させた。

 この後に続く暴力的な行為の前の戯れとして、子犬のように甘えつく。

 慈しみ尊ぶような狼の戯れに虎はうっとりと喉を鳴らす。

 痛めつけることしかしなかった自分の身体が悦んでいることを感じていた。

 あまりの巧みさにこの幼き狼を育んだ故郷の森に想いを馳せつつも、次第に激しくなっていく戯れに頭が掻き乱されて思考ができなくなる。

 このままでは情けない、と年長者の意地を見せるべく虎は身体を起こし狼の雄雄しい牙に、触れようと爪を伸ばすが、


「そんなこと、しなくていいです」


 お預けをくらった虎は不安そうな目をするが狼は柔らかく頬を撫で囁く。


「他の男に教えられた技なんて僕に使わないで」


 そう言って再び虎を押し倒し、牙を剥き出しにする。

 虎は息を呑み、自分の身体を狼の牙が貫いていく様をまじまじと見つめていたが、


「アッ…………ああぁーーーーっっ!!」


 最奥に届いた牙の衝撃に絶叫した。

 かつて乙女だった女王を噛んだ狗とは比べ物にならないくらいこの幼き狼の牙は大きく、硬かった。

 さらに嫉妬深さを感じさせる返しがついていて虎の体内を暴れ回る。


「ダ……ダメっ!

 こ。こわれるっ!

 あたしがこわれてしまうっ!!」


 狼に翻弄される虎に女王の威厳は既に無く、かといって情けない負け犬に成り果てたわけではない。

 甘い声で主人の歓心を引こうとし、撫でられるたびに訪れる快感に身悶える仔猫となって、狼の牙を受け入れていく。


「しょ……少年……あたし、もうっ!」

「テリーです」


 狼は牙を止め、虎に言い聞かせる。


「剣やデートではともかく、ここでは子供呼ばわりさせませんよ」

「あ……ああ、わかった。

 わかったから、もっと……」


 虎は狼の首にしがみつき、吠える。


「あたしをメチャクチャにしてぇっ!!」


 自分より遥かに強い虎が屈服した。

 雄としての自信がより一層狼の牙に力を与える。

 期待に応えるように狼は激しく虎を喰い破り、慟哭のような激しい咆哮と天へと駆け上っていった。


 嗚呼、ヤリティン♪

 ヤリティンティン♪

 

 これはヤリティンがいと高き師匠に男を教えたときの歌♪

 そして始まるは狂乱の宴♪』








 愛しい人がいる。

 僕の腕の中に一糸纏わない姿で。

 これ以上に幸せを感じる瞬間なんてあるだろうか。


 女になったレクシーは、どこまでも女だった。

 引き締まった体に付属する女性らしい部分は十分な大きさと柔らかさと敏感さを備えていて、僕に悦ばされることに貪欲で僕を悦ばせることに夢中だった。

 ミアに童貞を捧げた時とは違う感動があり、僕の中にレクシーの存在はハッキリと刻み込まれた。

 ただ……本当にヘトヘトなのでそろそろ眠りたい————


「なあ……テリぃお願い、もっかいしよう♡」

「……まるで底なしだな、レクシー」

「だって、こんなにイイものだなんて知らなかったんだ。

 君は本っ当に、あたしに初めてをいっぱいくれる」


 すっかりレクシーは僕にメロメロだ。

 ヤリティンのアビリティは効いていないというけれど……もしかするとキッカケじゃなくて行為の巧さがアビリティなのかもしれない。

 でもまあ、今はそんなことに頭を使うまい。

 眠いとかしんどいとか言ってられるか。

 精魂尽きるまで、狂った獣のように貪り合うんだ。


 

 僕は体力の続く限りレクシーを抱き続け、意識を失っても目を覚ましたら再開し、全てを吐き出しては眠り、起きては求めあいを繰り返し続ける。

 飲まず食わずのまま二回の夜を超えて、心配した宿屋の亭主はドアを叩くまで狂乱の宴は続いたのだった。







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カクヨムの限界に挑戦。

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