第27話 元童貞、回り回って勝利する
武闘大会は僕の優勝で幕を閉じた。
もっとも、僕はニーナの一撃で腹に穴が空いておりレクシーに傷を塞いでもらってもなかなか意識が回復せず、眠りこけていて、そのことを知らされたのは移送先の宿屋のベッドの上でのことだ。
優勝の勝ち名乗りができなかったことや拍手喝采を浴びることができなかったのは残念だが、それどころじゃないくらい大会の終わり方は散々なものだったらしい。
ニーナが服の下にスライムアーマーを着ていたことが観衆の前でバレてしまい、大会運営に対して恐ろしいほどの野次が飛んだ。
運営側は生贄を差し出すようにボディチェックを行った審判をその場で問い詰めたが、
「ニーナ選手に脅されて仕方なく見逃した!」
と光速で白状した…………実際のところは色仕掛けにかかったのだろうが少しだけでも罪を軽くしたかったのだろう。
当然、矛先はニーナに向かう。
僕よりずっと軽傷だったニーナは上半身裸のあられも無い姿のまま、
「だって勝たないと先生に捨てられちゃうから!!
本当はこんな卑怯なやり方したくなかったの!」
と大泣きを始めた。
涙は女の武器だなんてカビの生えた言葉を言いたくはないが、ニーナの最後の武器は観客の胸を見事に貫いたらしい。
それに結果的に僕がニーナを下しており、ニーナのそれまでの対戦相手は触れることすらできずに倒されている。
なお、八百長までは吐露していない。
聞かれていないからだろうし、負けた選手たちも色仕掛けに乗ったことをバラされたくないので口をつぐんでいた。
ことから大会結果自体に変更はなし。
後味が悪さを残して大会は閉会になった。
結局、一番痛い目を見たのは回り回ってあのモテ男だった。
大会前のミーナやニーナにした仕打ちは大会関係者の多くが目の当たりにしており、脅された審判もバックにモテ男がいたなら脅迫に屈しても仕方がないと判断された。
ミーナの本性を知らなかったモテ男にとっては寝耳に水だったのだけは少しだけ同情する。
とはいえ僕にとってはどうでもいいことだ。
「当初の目的のあのモテ男をギャフンと言わせることは成功したし、師匠の弟子として恥ずかしくない戦果を挙げられた。
僕にとってはこれ以上ないハッピーエンドですね。
あー清々しい」
「……その様子だと傷はもう大丈夫そうだな」
「修行中もっとヤバいケガ何度もしていますし師匠の治癒魔法の効果は存じ上げていますので。
それよりも、優勝しましたよ。
何か忘れてません?」
僕がドヤ顔でそう言うとレクシーは安堵したように顔を綻ばせた。
「やれやれ。
まさかあの娘があそこまで手段を選ばない輩だったとは。
人は見た目によらない。
でも、それすらも跳ね除けて勝利したんだ。
自分を誇っていいぞ、少年」
「ありがとうございます!
師匠の修行あってのことです!
で、ここからが本題ですが……優勝したということで、そのご褒美の方を……」
「ご褒美?
ああ、あのことか……
別にあたしに気を遣わなくていいぞ。
今や少年はこの街のスターだ。
あたしなんかよりも可愛らしく歳も近い娘たちが列をなして会いたがっている。
デートの相手には困らないだろう」
「あ?」
思わずキレ気味に声を漏らした。
「……あのですね。
僕はただデートがしたいんじゃなくて、師匠とデートがしたいんですよ。
他の誰かでもなく、あなたと」
「それは……困ったな。
あたしはこのとおり無骨者だし、歳も離れすぎていて不釣り合いだ。
あれだけ頑張ったことに対する報酬にならないと思うが」
レクシーの後ろ向きな態度に僕はすごくがっかりした。
そりゃあ、僕みたいな子供を連れて歩いてもレクシーからすればお守りみたいなものだろうけど。
頑張ったし、師匠としての名誉も得られたんだからそれくらいの見返りはあってもいいと思うんだ。
「師匠が嫌ならいいですよ。
ミーナあたりを誘います」
「ミーナを?
そんなに仲が良かったのか?」
「まあ、剣を交えているうちにいろいろあったというか、少なくとも前みたいに罵倒し合う間柄ではなくなったと思います」
「だが……アイツの弟子でその、男女の関係にあった娘だぞ」
「別に生娘じゃないと、みたいなこだわりはありませんし。
それにフラれたばかりの女は口説きやすいらしいですからね。
ワンチャン狙ってみますよ」
もっとも僕が本気で口説けば誰だって虜になるんだろう。
レクシーにその気がないなら禁欲する必要なんてない。
ミーナもニーナも迷惑料的を払ってもらうつもりで口説くのだってアリだ。
いや、むしろ大会の賞金を使ってこの街のスゴい娼館とやらに行くのもアリ————
「ダ、ダメだ! そんなの!!」
レクシーがうわずった声を上げた。
「いや……別に僕がどうしようと」
「それはその、アレだ!
ほら……大会の優勝者が敗者の女性と逢瀬を交わすなど色々噂が立つ!
ニーナのせいで随分ダーティな大会のイメージがついてしまったからな!
お前がミーナを籠絡して勝利を譲ってもらったと思われてもおかしくない!」
なるほど……たしかにレクシーの言うとおりだ。
事実、僕がミーナにその手の奸計を仕掛けたのは事実だからな。
となるとやはり、よりどりみどりの嬢がいるという娼館とやらに行くしか————
「そもそも!
あんな素人の集まった大会で優勝したくらいで羽目を外すなんてけしからん!
調子に乗って女遊びなどされてはあたしの名が廃る!」
「最初と言ってることまったく違ってますよ!?」
「わ、わかっている!
その代わりあたしが相手をしてやる!
あたしとなら師匠と弟子が息抜きに街歩きをしているだけだ!
これなら問題ない!!」
レクシーは断言した。
時折しどろもどろになっていた彼女の様子が気になったが、そんなことどうでも良かった。
だって話が一周回って僕の望む通りの結果になったのだから。
「ええと、確認です。
師匠が僕とデートしてくれるということですか?」
「ああ、そういうことだ。
言っておくが可愛らしさなんて期待——」
「よっしゃああああああああああああ!!
やったあああああああ!!
命懸けで修行を乗り越え!
優勝した甲斐があったぞおおおお!!」
焦らされた分、僕の歓喜は止まることを知らずベッドの上で飛び跳ねた。
「……物好きなやつめ。
じゃあ今日は明日に備えてさっさと休め」
「いや、まだ昼時ですよ。
せっかくだし街を軽く歩いてスター気分を味わいに」
「浮かれるなと言っているだろう!
あたしは色々用事がある!
目を離している隙にお前がやらかすと私の責任にもなるんだ!
大人しくしていろ!」
レクシーはプリプリと怒って部屋を出ていった。
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