第5話 根源
あぁ……なんだろ、これ。
体が全く動かねぇ……。瞼すら動かないっておかしいだろ。
元気っつうか、動力っつうか、頭が体を動かすことを忘れたみてぇだ。
例えると超賢者タイムって感じ。
「あ、タイガ起きた」
ん? めっちゃ近くにクォーミァいんのか?
「ようやく起きたか……んっ」
お、ラムルフもいんのか。
しかし、それにしてもなんだ? 今飲まされてるのは異世界でお馴染みの回復薬かなんかか? 元気はでねぇけど、癒やされる……。
……ただ、なんか飲むのちょっとムズいな。吸わないとあんまり量がでねぇ。
「お、おい……エルダ、これいつまで続くんだっけ? ワタシ慣れてねぇから、こんなの長く保たねぇぞ」
「シャメリお婆様が言うにはタイガ様が動けるようになるまでとのことですが……どうなんでしょうか? 完全に動けるようになるまでか、意識が回復するまでか、わたしは
「んっ、ふぅ……それならまだ寝てんなぁ。タイガの意識はあるけど、体が全く目覚めてねぇ。まだ心と体がバラバラの状態だ」
……何やら難しい話しをしてるなぁ。俺にはさっぱりだ。
しっかし困ったな……本当に体が全く動かん。脳みそから体に伝達ができねぇ、こりゃぁほとんど死んでるのと一緒だってばよ。
まぁ、今飲まされてるやつ飲んでると楽になっていく感じするからいいか。
「あっ、またおっぱいを飲み始めましたよ!」
え?
「でっかい赤ん坊……昔はワタシたちも同じだった」
「くっ……この舌がっ、一体いつまでこの状況なんだよ! ワタシの理性はそんなに強くねぇんだからなっ」
「聞いてるこっちもムズムズしてくる声を出さないでもらえますかね……」
――――え?
二十歳になっておっぱい飲んでるって……マジ?
「あ、少し眉間に力が入ってますよ。あんまり良い夢を見れていないんでしょうか? それともまだ体に痛みがあるとか……」
「いやタイガは起きてるよ。だからワタシたちの声は聞こえてるはず」
「ということは、何か不満なことがあるのでしょうか? 動けない、話せない、目も開けない、そんな状態ではやはり大変なんでしょうね~」
「もう実質赤ん坊と変わらない……てことは、おしっこだ」
いや、クォーミァ。そうじゃない、そうじゃないだろ?
分からんのか? 大人がおっぱい飲んで回復してるって、明らかに狂ってるだろ?
それともこの世界では普通なのか? いやそうじゃないはず……だよな?
そして、そんな状態なのに全然飲むのをやめられない俺に俺が困惑してんだよ!
「……恐らく、違うんじゃないですか? ほら、この表情を見てください」
「どんどん眉間に力が入っているなぁ。多分、体が言うことを聞かないのに声が聞こえているのが不思議なんじゃねぇのか?」
それはそう。
だけどそうじゃないのよ。
俺が大人のビデオでしか見ないような特殊プレイをしてるってことが、精神を揺るがしてんだって話よ。
まぁ、声が出ないからなんも言えないんだけどさ。
「うわぁ、すごいですね~。タイガ様の表情が無に戻りました!」
「だろ? まぁ、ワタシはタイガの嫁だからなぁ。タイガのことは誰よりも分かってねぇと」
「……どうせ全員タイガの子を孕むことになる。そんなこと言えるのは今のうち」
「おーい、戻ったぜえ」
……ラーインかぁー、この声は。
てことは、まだプルメスもリーラもいんのか?
「大河の様子はどうだ? ラーインが大河の目覚めに気がついたから慌ててシェメリのところから帰って来たが……」
「どうやらまだ意識は回復していない様子ですね~」
いるなぁー……。
どっちもいるなぁ。
てことは、俺……この姿を見られてんなぁ――――流石に恥ずかしいぞ俺でも。
「だが順調のようだな。運ばれて来た時と全く違って今は安らかに眠っている、シェメリが言っていた通りラムルフの母乳が役に立っているな。これなら夜か、明日の朝には回復するんじゃないか?」
「いや、それは分からねえな」
「どういうことですか?」
「実際、どうしてタイガの体に
確かに、それは俺も分かってねぇんだよな。
精霊さんが出来るって言うから出来ただけだし。
「それもそうですね……精霊――さんがいらしてくれれば分かりそうなものですが」
「あの方がいれば間違いなく分かるだろうな。唯一、大河の魂に接触している存在だ。だが、大河がこんな状態でも何もしてないということは大丈夫なんじゃないのか?」
あぁ、大丈夫だぞー。
全く体が動かないだけで、生きてる感覚はするし。
「それも……そうか」
「なんだ? 他に気になることがあるのか?」
「いや、後はタイガが回復するまで待つだけだと思っただけだ」
「だが明らかに言葉に詰まっていただろう」
「そうですよ。思ったことはちゃんと言葉にしないといけませんよ」
おいおい、何かあんなら言ってくれよ?
俺の視界は真っ暗なんだからな。そんな状態で言葉に詰まられたら怖いって。
「……それもそうだよな。なら言っとくけどよ――――ラムルフのあれ、羨ましくね?」
いやそこかよ。
「確かに」
「羨ましいですね」
……おかしいって思うのは俺だけなのか?
この状態を受け入れちゃって良いのか……?
これが異世界の多様性なら、受け入れるのも仕方ねぇか……――――
今まで目覚めていた感覚がゆっくりと沈んでいく。
眠くなる感覚とはまた違う、自分が何かに吸い込まれていくような……そんな感覚に引っ張られていく。
そして、より深く底に落ちていった先で目を覚ました。
「すぅー……ふぅ」
一つ、深呼吸を挟みつつ立ち上がる。
「あー……ここどこだ? 俺は何をすりゃいいんだ?」
ただ目の前に広がる大自然と太陽と月が同じ空に浮かぶような、摩訶不思議空間で誰が応えてくれると言うのだろうか。
いつものように精霊さんが会話をしてくれるわけではなさそうだ。
しかし精霊さんとの繋がりのようなものが断たれているわけではない、何故かそんな気がする。
「……まっ、考えても仕方ねぇか。ここ異世界だし。とりあえず――行くかぁ」
考えたところで答えが出るはずもない。
ここは自分が知っている世界とは違うのだから。
そんな無鉄砲な勇気で、大河は目の前に広がる大自然に向けて踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます