第5話 柔らかさ
次に目を覚ました時、更に厳重に縄で体を縛られていた。
起き上がることもままならい状況で、体をもぞもぞと動かしていると、扉が開く音がした。
「起きたか?」
「その声は……クォーミャとか言ったっけ?」
ぺたぺたと足音が近づき黒い影が少しだけ視界に侵入してきたと分かると、少しべットが軋んだ。
どうやらベットに座ったらしい。
「そうだ、ワタシの名を呼んでくれてありがとう。体の調子は問題ないか?」
「ああ……特に問題は――あるなぁ~」
意識を失う前、物凄いことをされていたのは分かってる。
今まであんな回数やったことはないし、しようと思ったこともない。
普通ならば死んでいそうなほど絞り獲られた体は、意外にも元気であった。
意識が覚醒するに連れて逆に元気が漲ってきて、色々……元気になりそうだ。
ただ、問題はそこではない。
「体をガチガチに縛られてるし、視界も暗い。なんでぇ? なんか心なしか縄もキツくないか?」
そう、縛られているのだ。
しかも体を動かすことも難しいほど何重にも縄が巻かれている。
さっきまでとは比べ物にならないくらいガッチガチだ。
「すまない。もうタイガを逃がすわけにはいかないんだ」
「逃がす?」
「タイガはもうヴォルフアオーンの……亜人・魔人大陸の〝男〟として生きてもらう、だから逃がすわけにはいかない。でも安心してほしい、大事にする」
「あぁ、つまり……なんだ? こんな状態になってるけど、飯とか住む場所とか用意してくれるってことか?」
「当然、タイガには出来るだけ長生きしてもらわないといけない。健康第一」
「マジかよ……俺からしたら目隠し拘束されてること以外はありがたいことだけど、なんでまたそんな高待遇なんだ?」
「それはタイガがワタシに繁栄を与えてくれる存在だからだ。一生ここにいてもらうし、万が一にもこの大陸から外に出すわけにはいかない」
正直に言えば、それは大河にとってはありがたいことだった。
全く知らない土地で生きていくのなら、これが最善策とまで言えるだろう。
種馬になる代わりに衣食住を与えてもらえるのだ。
しかし中には困ったこともある。
それは――この未知な世界を、このままでは見ることが出来ないという点だ。
「手足……いや、手は百歩譲って良いとしても、目隠しは外してくんない? この世界の景色とかご飯とか、どうなってるのか結構気になってんだけど」
「それはタイガの望みや命令であっても聞くことはできない。何故ならば、ワタシたちのことを見れば嫌いになってしまうかもしれないからだ」
人族……それこそ、この世界の住人ではない大河が獣人を見たら増々嫌悪してしまう可能性があった。
体が大きく頑丈、瞳孔のギラつき、人の体など簡単にえぐり取る牙と爪。
人族に亜人と魔人という存在は嫌悪されている。大河もまた例外ではないため、クォーミャたちは非常に恐ろしかった。
それに、無理やり大河に襲いかかったのだ。
もしも拒絶されてしまう未来が可能性として残っているのなら、目隠しを外さない方が良いという判断はあの場で雄を知った全員で決めたことだ。
「いやぁ、大丈夫だと思うけどなぁ……」
日本で生まれ育ったからこそ言える。
正直、全く問題ありませんよと。
そもそも男なら大丈夫だと思う、だって巨乳が嫌いなやついないもの。
「ダメだ」
「えぇ~! いいだろ? どうせ耳が生えてるとか、尻尾ついてるとか、ちょっと毛深いとか、そんなんだろ? 大丈夫、俺はイケるんだって」
他国と比べたら非常に小さい国、日本。
しかし小さいからと言って栄えていないわけではない。
むしろ、収まりきらないほどのカルチャーが存在している。
ビジュアル・デザインの方もそうだ。二次元だろうと三次元だろうと、様々なものが存在するが……まだまだ溢れるようにアイデアが生まれている。
クォ―ミァが何を恐れているのか知らないが、彼女は大河の受けの広さを知らない。自他共に認めるスケベ、有り余る精力、そして日本人という特殊な適応能力を兼ね揃えた最適な存在だ。
もはや、亜人・魔人たちに送られた〝神からのプレゼント〟のような存在である。
「むぅ…………やっぱり、ダメだ」
「そこを何とか! 頼むぅ……」
「いや、やっぱりダメだ。ダメダメ。ワタシたちは恐れているんだ、性の快感を知ってしまったから。もしもタイガに拒絶されたら生きていくことは出来ない」
「どうしても?」
「どうしてもだ」
「……そっかぁ」
「諦めてくれたか?」
「一旦ね。今からどうするか考えることにする」
「それなら良かった。それじゃ、まずはご飯にしよう。あれだけ体液を出したし、汗もかいたんだ。腹が減ってるだろう? 既に用意はしてある」
「お、そいつはありがたいけど……どうやって?」
「当然ワタシが食べさせる」
ベットにイモムシのように寝転がっている状態から、体を起こされるとクォ―ミァに寄り掛かる形で座らせられる。
「これで飯食うの?」
「イヤか?」
極楽じゃん。
最高じゃん。
男の理想のクッションじゃん。
つまりそれって天国じゃん?
「いや全然。俺からしたら最高だけど?」
「よかった。嬉しい」
少し荒い息を後頭部で感じながら、まるで赤ん坊のように用意されたご飯を食べさせられる。だが、問題があった。
獣人族の食事方法が素手なのだ。
食べ物を入れられる寸前に唇の隙間をなぞられ、それを合図に薄切りの肉を遠慮なく指ごと入れられる。味は塩が効いていて生ハムのような食感だ。
「野菜はないのか?」
「ある。クルミとキャベツのサラダ、あとはゴボウの唐揚げだ」
「おい、食いもんの名前は日本と一緒かよ!」
俺以外にも漂流……いや、この場合は転生? まぁそこは何でもいいけど、日本からこっちに来たやつがいるんじゃなかろうか……。
味は日本で食べていた時となんら代わりはない。
強いて言えば、クォ―ミァの指に付いた塩の味がするくらいだ。
「そうなのか? これは人族との交換で得た種から栽培している食物だ。エルフが育ててるから人族のよりも美味しいはずだぞ。飲み物は?」
「欲しい」
「口移しでいいか?」
「……できれば、普通で頼む」
「……そうか」
「なんでちょっと残念そうなんだよ」
またしても唇の隙間はなぞられると、素直に口を開いた。
すると少し柑橘系の香りがする水が流し込まれる。
「これ美味しいな」
「これは樹液水だ。水を多く含んだ大木をエルフが管理していてな、そこから取れる飲み物で…………」
見えずとも、触れずとも、こうして異世界の知識を知れることに嬉しく思いながら、赤ちゃんのように食べ進めること二十分。
ようやく全ての食べ物を腹に蓄え終わった。
「美味かったか?」
「美味いな。なんだか農家の採れたて野菜を食ってる感じで美味かった」
「じゃぁ、ここに一生いるな?」
「今のところはな」
今のところ一生いるってなんだよ。
そんなセルフツッコミを心の中でしてみるも、それ以外に選択肢がないことに少しやるせない気持ちが湧いてくる。
「わぁ~あ……さっきまで寝てたってのに、もう眠い」
ついさっきまで精根尽き果てるまで行為を行っていたからか……体が疲れているんだろう。渇々になった体に染み渡っていくエネルギーを感じ取るごとに、意識が朦朧としていく。
「それじゃ寝よう。タイガは見えないが既に月が夜を照らしている」
「おーう、電気は消すんだぞー」
「大丈夫だ。もともと電気は点いていない、ワタシは特に夜目が効くからな――――って、もう寝たのか」
自分の谷間で寝息を立てていることに気がついたクォ―ミァは、まるで息を殺して獲物を狙っている時かのように静かに行動を始めた。
大河に対する衝撃が一切ないように繊細な高速移動によって、自身と場所を入れ替える。そしてゆっくりと大河を寝かし、大河と添い寝する形で同じく横たわった。
「(これで逃げることは出来ないだろう)」
クォ―ミァが大河と位置を入れ替えたのは理由があった。
それはクォ―ミァが横になっている背後に扉があるからだ。
目が見えない相手にそこまでするのか? というほど、厳重な警戒は怠らない。
何故ならば、絶対に逃してはならないからだ。
それに万が一もないように大河と体を密着させている。大河よりも身長が高い約二メートルの体で包んでいるため、少しでも動きがあれば気がつくだろう。
実際に大河は自身の乳房に顔を埋めて眠っている。これで気がつけなかったら、ヴォルフアオーンの周辺警護など務まらない。
「(脈、呼吸は安定している。完全に眠ったようだな)」
すぅーっと空気を吸い込むと、大河から物凄い雌の匂いがした。
これを自分たちで付けたと思うとまた疼き始める……正直、今にも眠っている大河を襲いそうだ。
「(明日はエルフたちの番か……ずっとワタシたちの番で良いのに)」
この瞬間を忘れないように、再びこの瞬間に出会えるように、ほんの少しだけ力を込めて眠る大河に抱きつき……自身も眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます