第3話 異世界の価値観

 びくっ、と身体が震えて目を覚ます。

 しかし体は拘束され、視界も布で覆われており、不自由だと一瞬で悟った。


 あれ……何が――――


「起きたか?」


 聞き覚えのない声が、隠された視界越しに聞こえる。

 その声で意識が完全に覚醒したのだろう、敏感になった感覚が周りから物凄い視線を浴びているということを伝えてくれた。


「お、起きた」


「そいつは良かった。心臓は動いていたが、クォ―ミャが力の加減を出来ずに気絶させたようだったからな。いつ止まるのかとヒヤヒヤしていたところだぜ」


 ぺたぺたという足音が近づいてくる度に、布で覆われた視界が徐々に薄暗くなっていく。そして眼の前まで来たのか……視界が暗くなったと同時に、肌に少し風が当たった。


「話は聞いたぞ、人間。お前は命乞いをしたらしいなぁ――それも男を偽って。そう言えば、亜人たちは自分を殺さないとでも思ったのか?」


「いや、俺は男なんだって……恥ずかしながら、証拠は見せたぞ?」


 こいつが言ってるクォーミャってのは、俺のことをここに連行してきたあいつのことだろうか。俺はちゃんと、あいつに見せたはずだ。

 ……いきり勃った姿を。


「証拠? はっ、確かに話では聞いたな。おかげですぐに分かったぞ? その話が嘘だってことがな。他にも日本という場所から来たとか、名前も聞いたなぁ……なんだっけ? タイラー? だったか?」


「……平だ、た・い・ら。語尾を伸ばすな、ライターって昔のあだ名思い出したわ」


 ここに来てその名前を思い出すとか……何かあの日常が淋しくなってきたな。

 あぁ……何か帰りたくなってきた。

 もしも、今ここで死んだら――日本に戻れるのかなぁ……。


「まぁ、そんなことはどうでもいい」


「良くねぇよ。てかなんだよ、こんなに男の俺のどこが信じられねぇんだ?」


「全てだ。人族以外に男がいないことは十年前の戦争でよく知っている、亜人側の男とその戦争時代の女たちはほぼ全て勇者とその仲間に殺戮されたからな。おかげで今や亜人・魔人族は人族に頼らねば存続できないほどの危機に見舞われている」


 ……え?


「ワタシはヴォルフアオーンの代表だ。つまり男を見たことがあるし精を貰ったこともある。気がついているか分からんが、ここにいるがそうだ。息を殺してお前のことを見ているぞ? そうして出た結論が――お前は男ではない、というものだ。クォーミャには悪いが……あんな与太話、誰も信じやしない」


「……全く話が分からん。つまりどういうことだ?」


 こんなに男な見た目……というか、男なのに?

 信じられない? 与太話?

 意味が分からん。


「お前はクォーミャに森で背後をとられた時に勃起していたそうだな?」


「……ったりめぇだろ。俺じゃなくてもあぁなるっつうんだよ」


 日本男児……いや、もう世界を巻き込ませてもらうね。

 生死を彷徨うかもしれない緊張状態、密室(森林)で女と二人きり、爆乳が背中にくっついている。

 この条件で勃起しないやついる? いねぇだろ?

 あんなの生理現象、自然発生だ。我慢は出来ても制御は出来ねぇよ。


「嘘だ!!」


「うわ、びっくりしたぁ……」


「ワタシたち獣人のせいで勃起するわけがない……出会った人族は全員嫌そうな顔をしていた! しかもなんだ!? サイズは獣刀くらいあったって? 誰がそんなこと信じるか!?」


「いやその武器知らんし……」


「それにこんな体付きじゃない。もっと線が細いか、線が太かった!」


「そんなこと言われても……」


 確かにニートの割には体はしっかりしてるけども。


「チッ……クソッ!!」


 大河の腕を強く縛る縄を掴み、大河の体ごと宙に浮かせる。

 その先にかなり上に持ち上げられ大河の太もも辺りに、柔らかい感触が伝わった。


「さっさと男装魔法を解除しろ!! お前の首で、大義名分のもと人族のゴミ共と交渉して、ワタシたちの――――」


 ムワッと鼻を掠めた精の……いや、オスの匂いに、声量が徐々に下がっていく。周りにいる者たちも、大河を掴み上げている本人も、そして大河自身も気がつているだろう。


「な、な、なんだこれぇ……」


 いや、一番は掴み上げている本人か……

 ちょうど自身の谷間に大河の固く脈打つそれが深く突き刺さった。

 そのせいで、谷間からもう一つの山が顔を出した。


「あぁ……えー、うん」


 あ、終わったぁ……。

 今にも殺されそうだってのに、俺のマイサンは何をしてんだ。


「仕方ない、仕方ないよ? これは。男だもん、仕方ないって」


 仕方ないの三段活用。

 あまりの動揺に短い言葉で三回も仕方ないを使うとは思いもしなかった。


「なんだこれはと聞いている! まさか股の間に武器を仕込んでいたのか!?」


「違ゔ――!!」


 あ、やべ。喉終わった。

 そういや……水飲んでねぇからか、心なしか手先がビリビリって痺れるな。

 縛られてるのもあって余計に体が動かしにくい。


「お、おい……エルダ。こいつを固定してくれ」


 掴み上げられていた手を離されるも、大河は落下することなく空中で止まった。それこそ手足が一切動かせないまま、空中に固定される。


「ぁ……み、ず」


「黙ってろ」


 一歩、体を引いたことによって大河の股間に籠もっていた熱が少し冷めた。しかし既に暴走状態にある大河の大河は、更に盛り上がり……履いているズボンを今にも突き破りそうな勢いであった。


「全員見ろ!」


 ジッ、と視線が一箇所に集まった。

 集まっている箇所は言うまでもないだろう。


「これから……こ、ここ、この雄の匂いを放つ原因を確認する」


「ねぇ……ラムルフ?」


「ど、どど、どうした!? エルダ!」


「本当にこの人が男だったら――どうするのですか?」


 目隠しをされて。

 手足を縛られて。

 身動きができないまま空中に固定されて。

 これまでの扱いを鑑みるに、とてもじゃないが許してもらえることだとは思えない。いくら亜人と話してくれる心優しい人族だとしても、ここまでされたら許してはくれないだろうと……容易に想像ができた。


「その時は――――」


 ラムルフは宙に浮かんだ、男を見上げた。


「ワタシが代表となり、贖罪を清算する」


「み……水を――――」


 大河の掠れた囁きなど一切触れることなく、履いていたズボンを下げられた。

 そして現れたものは下げられた勢いに反発するよう戻り、ブルンッとラムルフの頬を引っ叩く。


「へぇぁ……」


「……スッゲ」

「デッケ!」


 部屋中に充満していく雄の匂い。

 その匂いに我を忘れて、亜人たちの体は自然と動き出す。

 その時、初めて大河は……理性を失った獣たちに蹂躙されることになった。

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