第22話 取引……開始 中編
「ったく! 相変わらず騒がしいな……化け物共め」
用意されていた椅子に音を立てるように座る、線の細い眼鏡をかけた男。そしてその隣に座る背の低い女性も顔負けの美形の男が、卓上の資源とその内容を漁り始めエルダたちが想像魔法で作り出した薬草、秘薬、鉱石などが机に散らばった。
「おいおい……足りてるかぁ? これ。いつもと同じじゃないか」
無数に作れるとは言え、エルダやヴォルフアオーンに住むエルフたちが想像魔法で生み出した物資を適当に確認しているが、その姿からしてもはや何を確認したのかも分からなかった。
「この僕が来ているというのに、ホント……」
「ですが、この魔石は魔導具制作に使えます」
「それだけだろう? ん?……おいそこの角女、お前が持ってるその金のブレスレットを寄越せ」
「え……え?」
「チッ、早く持ってこいよ!」
机の上をトントンと指で弾き、シャメリーに対して催促する。
しかし絶賛混乱中のシャメリーは人族の男に対しての応答がいつも以上に遅かった。その理由はただ一つ……
「おい、あれがこの世界の男か? まさか、いっつもあんな感じなのか?」
「あの態度がこの世界の常識みてえなもんだ。分かるだろ? タイガがどれくらい良い男なのかってことが」
「お、おいおい。急に褒めんなよ、調子に乗っちゃうだろ。しかしなるほどねぇ……友達にはちょっとって感じかも」
先程から後ろにいる三人と仲良さげに話しているエルフの男。
ラムルフに〝タイガ〟と呼ばれていた人物のせいだった。
「おい、角女! いい加減にしろ、早くそのブレスレットを持って来い!」
「は、はい! ただいま……」
言われるがままに、シャメリーは魔王から頂戴していた純金のブレスレットを円卓の上に置いた。
それを声を荒げていた男が受け取るわけでもなく、一度隣に座っている男が手にとり肌触りが良さそうなハンカチで綺麗に吹き上げてから、ようやく男の手に渡る。
「ほぉ、それなりに良さそうなものだな。ガラクタではなさそうだ」
「これは……宝具ですね」
「魔王様からの頂戴した感謝そのものです。お受け取り下さい」
「感謝? まぁ、それはされて当然のことか。僕たちはお前らを救うために、この場にわざわざ来てやってるんだからなぁ。本当ならいつもこのくらいの礼があって当然と言えるだろう……それで、いつまでそこ突っ立っているつもりだ耳女」
「……はい?」
「僕たちは説明を受けるためにわざわざここへ来てやったんだ、さっさと僕が納得できる説明をしろ。それと、その生返事に腹が立ったためこちらからの資源を一本減らすことにした」
「なっ!? どういうことですか!」
「誰が声を出していいと言った、この角女が! この僕に口答えするな!」
全く……と呟いては、受け取った純金のブレスレットを腕にはめて、それをにやにやと眺める。
様子からして、とても説明を聞こうという態度ではない。
それは隣に座っている男も同じだ。
ここに長居はするつもりはないと、そのしらけた表情が言っている。
「むかつくわぁ……」
そういう顔が、大河は嫌いだ。
見下してもいない、嫌悪に歪んでいるわけでもない、ただただ興味がない。
そんな無関心で自分勝手な顔が嫌いだ。
「――――マジでむかつく」
この世界で、男ってのはそんなに偉いのか?
たった一言。それも別に間違ったことを言っているわけでもないのに、こっちに必要なものを減らす立場にいるほどか?
立場が上なのか知らねぇが、ここまで失礼な態度を取れるほど礼儀がなってないのか?
「同じ人間とは思えねぇな……こりゃぁ、友達にはなれそうにねぇ」
話しに聞いていた人族……つまり人間のことを嫌いにはならなかった。
その理由は、人伝で聞いた話しで好き嫌いを決めることが嫌いだからだ。
でも、今の会話で本能的に察したよ―――――
こいつらを好きになれる理由がない。
「あ?」
「…………」
「だから、お前ら二人のその顔面がむかつくって……そう言ったけど、聞こえなかったか?」
探そうと努力をしようと思ったけど、その気持ちすらなくさせるような人間性。
どれだけ思い上がれば、こんな恥ずかしい人間になれるのかのやら……。
異世界の人間ってのは、そうやって教育されてんのか?
「なんだ? お前は」
「なぁ、こっからは俺にやらしてくれ」
一歩、大河が前に出るとラーインとラムルフは一歩下がる。
リーラも胸に手を当てて獣人たちに習った。
「おい、シャメリー。お前ぇもこっちに来い」
「え、え? ですが――――」
「いいから来いって、話しなら後でワタシたちから魔王様にするからよ」
まぁ、はっきり言って策はない。
「おい、お前は誰だと聞いている。さっさと答えろ!」
感情的になって言葉にしてしまっただけ。
普通に……やっちまった。
けど後悔はしていない。
ここで何も言えずに黙っていたら……俺はこいつらと同じになっちまう。
「ここに来た時から思っていましたが、そちらの大陸では我々人族と違い性別を変える魔法は、魔王の誓約によって禁じられているはずでは?」
「はっ、性別なんて変えてねぇよ」
「なに……!?」
「見て分かんねぇか? どっからどう見ても……男だろう? 俺は」
両手を広げて、包み隠さず二人の前に出ていく。
武器は持っていない、服もまぁ――――おい、待ってくれ。
今更気がついたけど、エルフの格好恥ずかしっ!
レースのカーテンを体に巻いてるだけじゃねぇか!
……俺の乳首透けてんなぁ、どうしよ。
……うん、下なんか見なきゃ良かった。全部スケスケじゃねぇか。
「え……」
まぁ、それは今は仕方ない。
気を取り直していこう。
「ほら見ろ、もっこりしてるだろうが。言わせんな恥ずかしい」
椅子を引いて、人族の男二人と対面するように座る。
せめて下だけは隠させてね。
「嘘だ、男が……男が生き残っているわけがない! お前らの男は神によって裁かれたはずだ! 嘘を言うな!!」
「おー怖っ、急にヒステリックか? やめてくれよ、話し合いに来たんだろ?」
ナイフとか持ってたら、今にも突き刺してくる勢いだな……。
頼むぞ精霊さん、信じてるからな。
俺に失うもんがあるとすれば命だけ、何があっても俺を守ってくれよ~。
『何も問題ない、好きなようにやるといい』
「(流石は精霊さん、頼りになりすぎるぜ)」
そんじゃ、まぁ……好きにやらしていただきやす。
「くっ!」
「まっ、ともかく話そうぜ。お前らはヴォルフアオーンの結界について話しに来たんだろ?」
大河は痩せている方の男が適当に漁った後が残る円卓を片付けながら、二人の人族の様子を伺った。
「(キレイなほどイケメンだな……こいつ。マジで完全体イケメンだ、情緒不安定だけど。隣のは……流石に痩せすぎじゃねぇか? 飯食ってる? 服ぶかぶかじゃねぇか、高校上がりたて……垢抜け前って感じ)」
少し二人を見た後、大河が出した結論はこうだ。
一人はイケメン。
一人は新入生。
イケメンの方には焦りが見えて、新入生の方は怒りを感じる。物凄い形相で俺を睨んで来ているけど……なんかあんまり怖くないな。俺の高校にいたヤンキーの方がまだ全然怖いわ。こんなひょろひょろなやつに睨まれてもって感じだ。
てか……なんだろう、落ち着いてきたからか?
こいつ、急にモブ感強ぇな。
嫌いだからか、色んなところに悪いところが見つかってきたし……
「ぷっ……ブフォ!」
こいつっ……ぷぷ、ちょっと鼻毛出てる!!?
肌とか髪とかやたら綺麗だから逆に目立ってるしよぉ……勘弁してよマジで!
あと顔長すぎだろ! 今まで美人しかいなかったのに急に変なのくんなよ!
てか、なんでこいつは鼻毛出てんのにこんなに威張れんだよ!?
「……お前今、もしかしてホソリ様を見て笑ったのか?」
「えぇ? ぷぶっ……! い、いや? 笑ってなんか……にゃ、ないよ?」
やべ、堪えきれねぇ! 死ぬ!
てか名前ホソリって……名字とかならマジでやべぇっ。
異世界キツすぎる! 腹筋割れるっ!
「お前……! 無礼だ、無礼すぎる! 僕の言葉を無視するどころか、僕の家名まで馬鹿に……死刑だ! その首をターナリオンの大広場に吊るしてくれる!」
ホソリが付けていた指輪が光ると、一瞬にして剣が握らていた。
大河にはそれが人族の科学とやらなのか、魔法の一種なのかは分からないがただ一つ分かることがある。
それは、普通に不味い状況になってしまったということ。
どうやらイケメンでヒステリックなやつと、感情的になると武器を握るサイコがこの円卓の席に座っていたらしい。
「死ねッ!!」
でも……
「(頼むぞぉ~、精霊さん……!)」
まるで親の仇のような気迫で振り抜かれる剣。
当然このまま振り抜けば、隣にいるイケメンにも当たってしまうだろうに……このカスはそんなことも考えられずに、大河に向かって剣を振り抜いた。
『散れ』
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