第18話 取引一日前 後編
異世界から来た大河がエルフや獣人たちにもたらした影響は、とてつもなく絶大なものだった。
まず一番初めに一番衝撃な事実、獣人であるラムルフを人間である大河が孕ませたこと。人間と亜人ではそもそも存在が違うため子作りがしにくいが、大河は一回のまぐわいで子を作った。
今まで苦労してきた十年のお釣りとしては、多すぎてどう返せばいいのか分からないほどの功績だ。
そして、我慢できなかったリーラたちエルフが大河とヤっちゃったこと。
流れるようにラーインたち獣人も大河とヤってしまった。
「まぁ、これまでは良いとして……」
「良くないですよリーラ様」
「根に持つなよエルダ」
「持ってます! リーラ様にもラムルフ様にも!」
だが、ここまでは全て亜人にとっては良いことだ。
未来への活路が切り拓けたと言っていい。
しかし……まだ問題は二つ残っていた。
一つ、大河の存在が亜人を活性化させ、今以上に強くしてしまうこと。
二つ、大河の存在を主であり王である魔王に報告しきれていないことだ。
特に二つ目は良くない、下手をすれば誓約に引っかかる。
「それで? それだけが怒ってた理由じゃねぇんだろ? みんなの反応見る限り……この無茶振りが初めてってわけじゃなさそうだし」
「そうなんだよぉ、
「その原因であるタイガ様本人にも説明が出来ず、恩恵を得られたわたしたちにも当然説明ができません」
「でもそんな言葉じゃ納得しねえからなぁ、あいつらは」
「(だからラーインは怒ってたのか)」
考えても考えても辿り着けない答え、それは本能的に嫌な気持ちになるだろう。
俺だってそうだ。ラーインの場合は〝王〟だからこそ、この回答に辿り着けないと尚更イライラするだろう。
まぁ、獣人って結構単調だし。頭で動くってよりも行動するってタイプだもんな。
多分、あの扉もちょっと力入れたらぶっ壊れたんだろう。
入る時にエルフたちが修理してくれたけど。
「ですから、どうにかして適当な理由を考えてエルダを連れて行こうと思っているんですが……そうなった場合、ヴォルフアオーンの結界がなくなってしまいます」
「四人で結界魔法を使ってるってことか?」
「そうです。それを起に人族に攻め入られてしまうとタイガ様を守れなくなってしまいますのでどうしたものかと……」
ラムルフは妊娠中、クォーミァとフェイガーだけではこの大陸全体を守り切ることはできない。ヴォルフアオーンの外れから攻め入られてしまえば、街を守り切ることができなくなってしまう。
かと言って、ヴォルフアオーンに住む亜人の王である二人が今回の取引に顔を出さないなんてことがあれば人族は増々そこに浸け込んでくるだろう。
「それに、タイガを魔王様が公表していない以上……ワタシたち以外にとってはまだ敵だ。こっから近い鬼人族は……無理だろうし、東に住んでる竜人族なんかはもっと無理」
「魔国に連れて行ったとしても同じでしょうね、あそこには〝王〟が集まってますから。目隠しで縄で縛るなんて甘い拘束じゃないでしょうね」
俺って……ここじゃないと普通に拘束されんだな。
楽しい異世界ライフとか甘ったれてたけど、全然無理じゃん。
「なら、精霊樹に俺が行くのは?」
「あ! それ良いんじゃねえのか、リーラ」
「結界がなくなってしまうで、真っ先に人族に切り倒されて運ばれてしまいます。そうなった場合……タイガ様は精霊たちの住む世界とこの世界の間に永遠に閉じ込められてしまいますよ?」
「じゃぁダメだ!」
「うーん、確かにそれは困る……あ! なら俺についてるっていう精霊に頼んでみるのはどうだ?」
「そうは言っても、不確かなことですしタイガ様には魔力が――――」
「いやいや大丈夫だって! そう俺の感がそう言ってる、任せろ」
エルフが扱う想像魔法というのは、主に精霊の力とエルフの無尽蔵な魔力が合わさって使えるようになるものであるということは、常にエルダと一緒にいたから何となく察していた。
しかし、リーラやエルダ曰く俺には魔力はない……らしい。
それでも精霊に気に入られたということは、もう答えは一つだけだ。
「おーい精霊さんや」
なんか運が良くて助けてくれるようになっただけ!
「助けておくれー」
そうだろ、精霊さん!
「「「「…………」」」」
「……あ、あれれ~、おかしいぞぉ?」
全く助けてくれないんだが?
「まっ、無理だよな! だってタイガからは魔力感じねえもん」
「ちなみにタイガ様は精霊様に何をお願いするつもりだったんですか? もしかしたらわたしの魔法で出来るかもしれません」
「いやー、俺が行こうと思って」
「「え?」」
「いやだから、俺が人間の取引の時に一緒に行こうと思ってさ」
「……どういうことですか? 危険です!」
「ふふ、まぁ聞けよ。俺の作戦――――」
まず初めに、人間の姿で会いに行くのは状況が悪くなりそうなので却下。
相手が人間だし、俺も人間。話しを聞いてる限り悪知恵が働く相手に、頭の良さで挑んでも勝ち目はない。
つまり、相手の想像を超えるアイデアで挑むしかない。
この世界の常識が通じない俺が、偏差値50で叩き出した可能性……
「それは、俺が亜人に変装して人族をびっくりさせよう作戦だぁ!」
想像魔法というのは、ようするに何でもありの反則魔法。
使い方によっては……この世を滅ぼすことも、創り出すことも可能だ。
エルダ曰く、魔王との誓約によって禁忌とされているものが多いらしいが、種族を変えるくらいはいけるだろう。
……という、俺の甘い発想。
「できそうか? リーラ」
このあまりにも完璧な作戦が成功すれば、亜人に男が存在するというインパクトを相手に与えられることになり……更に取引を優位に進められる。
それに力関係で優位に立つ亜人・魔人なら、頭の働く人族もおいそれと手は出せないはずだ。
「それが成功しちまったらタイガが人族に狙われることになる、いいのか? たった一人で矢面に立つことになるぞ」
「でもこれしか解決策がないだろ? エルダたちは離れられないし、魔力が膨れ上がった正確な説明もできない。こういう時は答えにならない答えを用意するしかねぇ……」
亜人に男がいるという答え。
その答えこそが、人族の考えを混乱させる鍵になる。
優位な場所に立ち頭の回る人族を引きずり下ろすには、不可解で大きな情報を与えるしか方法はない。いくらでも時間を使って解決しようとしてくれるだろう。
「……種族を変える、ですか」
「いけるか?」
「それは秩序を乱す可能性があるため――――魔王様の許可が無い限りできませんね。それが可能ならば、始めから人族の男を全員亜人に変えています」
「…………ですよねぇ」
無理かぁ。まぁ、無理だよなぁ。
案外、強すぎる力ってのは難しい。何でもできる魔法なら尚更。
「そっかー、良い案だと思ったんだけどな。それに一回俺も――――」
エルフになってみたかった。
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