第29話 誓約の力

 リーラが手短にこれまで起こった出来事を説明し終わると、大河は自分の体に手を当てた。


「つまり、みんなが言う精霊さん様ってのは……俺に力を貸してくれる精霊さんのことだったのか」


 これか……体を使ったってやつは。

 つまり、なんだ。俺の体を使って魔王城に来て……みんなと話したと。

 俺がやらかしたことのケツ持ちをさせちまったってことか。


『気にするな』


 うん、分かった。

 でもさ体を乗っ取るのは構わないけど、その乗っ取ってる間のこと言う暇あったよね? こういうことはちゃんと言ってもらないと困るよホントに。


『何も悪いことはしていないだろう。むしろ良い方向に進んでいる、こういうことを縁の下の力持ちと例えるんだろう?』


 その知識は一体どっから……


『お前の使われていない知識からだ』


 どうやって会話しているのか本人大河でも分からない精霊との会話。誰かの会話の最中に話してしまうと、黙り込んでしまうのが難点だった。

 そのせいで、呆然と虚空を眺めて沈黙する大河を見てリーラが心配した表情を向けてくる。


「タイガ様……?」


「あ、あぁ……大丈夫だ。しっかし聞いた限りだと、精霊さんは相当すげぇんだな。なんかみんな知ってるみたいだし」


「か、かなり有名な精霊様なんですよ!」


「そっか、エルフのリーラが言うなら相当なんだな……」


 ちゃ、ちゃんと敬語とか使った方が良かったか?

 結構スゴイやつなんじゃなかろうか……。

 まぁ、ちゃんとした敬語なんて使えないだけど。


『別にいつも通りでいい、その方が互いに気が楽だろう』


 そりゃそうだ。

 友達だと思ってたやつが、実はスゲェやつだったとしてもあんまり態度変わんねぇよ。例えそれが……どんな存在でもな。

 んなことより、俺のケツ持ち助かったぜ。恩はちゃんと返すよ。


「まっ、話しは分かった。それで……俺は何をすればいい?」


 話しの経緯は分かった。

 しかし、肝心の償いが何かを聞いてはいない。

 人族と行っていた大切な取引をぶっ壊した代償は大きいだろう。


「それなんだがな……」


「俺にできることなら何でも言ってくれ」


「確かめさせてくれないか?」


「おいプルメス……! さっきの作――――」


 ラーインの言葉を遮るようにプルメスが動き出した。

 パチンッ、とプルメスが指を鳴らした時……その指先から黒い稲妻が走った。

 その黒い魔力が大河の口元を当たると、黒い紋章が浮かび上がる。


……正直に言うと、さっき三人で話し合ったことがある。それは大河が気を失っている時の話しだったが――――それが本当のことか誓約を結ぼう」


 動揺と混乱、主に混乱ではあるが……プルメスは自身と場の雰囲気に流されていた。信頼に足る二人の王が大河側に立っていたことも一つの要因だろう。

 しかし、それもついさっきまでのこと。

 むしろ信頼に足る二人の王と惚気話で盛り上がったこそ、理解しようとしたことで冷静さが戻り始めたのだ。


「(誓約って言葉……何度か聞いたな)」


「魔王様! タイガ様には危険です!」


「ただ、嘘を言わないように誓ってもらいたいだけだ。それ以外は何もしない」


「なんだ、そんなことか。わかった」


 そもそも嘘をつく理由がない大河にとって、それだけでプルメスからの疑いが晴れれることになるならそれで良かった。

 だが――というのは、大河が思っているほど甘いものではない。

 魔人族の中でも悪魔と契約している者のみが扱える力だ。

 能力は至って単純。相手に守らせる誓約の内容が大きなものほど、誓約をかけた者に強い力を与えられるというものだ。


「話しが早くて助かる。まぁ、既に誓約はかけているんだがな」


「うぉい! それを早く言えよ!?」


「すまない、どうしてもこの目で確かめなければ信じられなくてな。私も魔王……確信のないもので亜人・魔人たちの未来を決定することはできないんだ」


 そう言い終えると、プルメスはソファに座っている大河の肩に手を置いて向かい合うように座り始めた。


「今、どう思っている?」


「どうって……」


 今の真面目な会話はどこへ行ってしまったのか……。

 覗くように見つめてくるその瞳に、深淵の如き昏さはなく。むしろその威圧感に見合わないような少女のような可憐さを感じさせた。

 魔人と呼ばれる一見禍々しい捻れた角を頭に生やす、褐色の肌を持つ女性。

 大河にとっては、エルフや獣人よりも異世界らしい人種と言える存在。更に言えば、ここに来てから毎度思わされる男を刺激する容姿。驚くほどに柔らかくハリのある巨尻が太ももと当たって広がっている。

 そんな、そんな……威厳と色気を持ち合わせた〝王〟の恥じらいと期待。

 その二つの感情を秘めたプルメスの表情が、大河の理性を揺さぶった。


「どう思っているか聞いてるんだ、正直に答えてくれないか? ――ん? 腹に当たっているこれはなんだ……固いな――――まさか武器か!?」


 誠実と理性の間でブォンブォンと揺さぶられている大河に追撃するように、プルメスが手を伸ばしたのは大河の大河だった。

 つついてみたり、握ってみたり、そうやって確認するいかにも無知な姿に相まってどんどん元気になっていく大河はもう自分では制御不能の完成体になっていた。


チ◯コだよ武器じゃねぇよ!――――ん?」


「チっ!?……そうか、そうかそうか!」


 バチバチッと静電気のような痛みが走った。

 その青紫の瞳がグッと近づいてくると、


「ということは、やっぱり私でも興奮してくれるんだな!」


 破顔とはこういうことを言うのだろう。

 角が生えていようが、体から黒い稲妻を迸らせようが、その表情と肉体の前では関係ない。大河の脳内を誓約に基づいて正直に、嘘なく、やらしいこと一色に染め上げていく。


「ラーイン、リーラ、これは私もいけるんじゃないか?」


「だから、最初からわたしたちはそう言っていたじゃないですか! まさかこんなことを確認するためだけに誓約を使ったんですか!?」


「当たり前だ! もし私だけダメだったらどうするんだ!」


 何をそんなに気にすることがあるのか……、それは日本から来た人間には決して理解できないだろう。プルメスを含む異世界の女たちは、十年間も男と会わなかった者たちだ。最初のクォーミァやラムルフのように過剰に男に反応するのも仕方ないことである。

 それに亜人・魔人の大陸では男女逆転どころか、男という存在がいなくなってしまったのだからプルメスが雌の顔をしているのも無理はなかった。

 

「いや、おっぱいとこの尻エロすぎるそんなことはないけども……」


 当然、大河も大河で普通に異世界の女たちをやらしい対象として見ているため一瞬で爆発しかねない性欲を蓄えている。特に今の状況は尚更だ。

 対面座位でいる都合上、誘惑に負けて吸い込まれるように触れては行けない場所へ手を伸ばそうとしてしまっている。

 それに良い仕事邪魔をして、今の大河は心も体も一切の隠し事ができなくなっている状態だ。迂闊にスケベな考えをしようものならスラスラと声に出てしまうし、行動に移してしまいそうになる。

 実際にそうなっていないのは、そういうことを考えながら女の子と接すると嫌われる傾向にあるという男ならではの抑制の力が大きかった。


「うぉい!? これどうにかしてくれ! 思ったことが口からそのまま出ちまう!」


 大河の体が少し力んだことによって、プルメスの腹部に太く固く大きな突起物がグッと押し込まれた。


「んぅ……」


「やらしい声出すな!? ……~~~ッ、どうにかしてくれぇ!!」


 珍しく取り乱し始める大河だったが、当たり前のことだった。

 ようやく見慣れてきた魔法や不思議な力というものが、ここにきて初めて自分に使われたのだ。単純に言えば……かなり焦っていた。


「な? 分かっただろ? タイガはちゃんと興奮してくれるってことが……それに十年間使ってきた〝精棒〟じゃ誰一人孕まなかったが――――タイガはラムルフを孕ませた。ワタシたちが言ったことは嘘じゃねえんだよ」


 隣に座るラーインが大河に体を寄せて、頬を一舐めする。

 それに負けじと反対側に座るリーラも大河の腕をとって、自分の谷間へと持っていった。


「……本当に、確認なんて必要ないんですよ魔王様」


 囲まれた三方向から感じる圧――言うなれば、大河を興奮させるための〝性の圧力〟を全身で感じ取ってしまう。


「催眠は効くのか?」


「酒に酔っ払うんだ――効くだろ」


「精霊様の力は顕現されていませんから問題ありませんよ。この状態のタイガ様になら魔力抵抗がない分……ものすごく効くでしょう」


「お、おい、なんの話しをしてんだ……?」


「それじゃ――――やっていいか? もう我慢できん」


 バチィッ! と鼓膜を突き抜けて、一瞬だけ脳に痺れを感じ取った時には既に遅かった。視界が黒く塗り潰されていき、体から力が抜けていく。


「まぁ、もう準備はできていたがな。シャメリー、お前も来い」


「私もですか?」


 塗り潰されていく視界の中、大河が最後に見たのは――――


「当然だ。孕む人数は多い方が良いに決まっている」


 四人の亜人・魔人メスが恐ろしいくらいににこやかに笑っている表情だった。

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