第28話 精霊さん 降臨ッ!!
それは突然のことだった。
他の〝王〟に対して緊急招集をかけ、代表者たちを集め始めていた時。
『ふむ』
人族とはとても思えないほどの圧倒的な魔力。相手が人族とは言えど、誰もが一瞬見惚れてしまうほど美しく、神々しく、恐ろしい有り様で、円を描くように並べられていた六つの椅子の中心に、一人の人族が現れた。
「何者だ……貴様」
その人族は、あまりにもあっさりと魔王の言葉を無視して並べられている席を一つずつ数え始める。
『〝魔王〟〝妖王〟〝獣王〟〝龍王〟〝鬼王〟〝石王〟……王の席は変わらず、か。それに〝真祖〟も存命、これは行幸だ。あの神という存在は、やはり我々の
そうして魔王の言葉にすらも反応せず、一つ一つ席を数え終えると指を鳴らした。
すると、白い繭のような魔力の塊が浮かび上がり、その中から……
「うぉっ!」
「きゃっ!」
〝獣王〟ラーイン。
〝妖王〟リーラ。
その二人が現れた。
「ラーイン! リーラ! おのれ貴様……これは一体なんの真似だッ!」
思わず席から立ち上がり臨戦態勢をとった魔王と|吸血鬼の女王真祖であったが、その二人を止めたのは意外なことにラーインとリーラであった。
「お待ち下さい! これには深い理由がございます!」
「プルメス、悪ぃがワタシたちの話しを聞いてくれ」
転移させられて来た二人の王が、魔王の前で膝をつく姿に真祖が呆気をとられていると遅れてもう一人宙から落ちてきた。
「あぁ、もうっ! これは一体どういうことなんですか……」
「シャメリー!」
「ま、魔王様!? 失礼しました……こんな無様な姿を――――」
突然現れた人族が生み出した混乱についていけない。
混乱に次ぐ混乱……そんなカオスな空気の中で最も冷静なのが、この混乱を引き起こした張本人だというのが何とも言えなかった。
『さて、全員集まったな。真祖がいるのは……まぁ問題ではないだろう』
「どうなっているんだ……?」
『ほぉ……今代の魔王は歴代と比べても遜色ないな。その若さでよく鍛え上げていると言える、大戦の時はさぞ輝かしい存在だったことだろう。真祖も大いなる力が秘められているな、目覚めた時がどうなるか楽しみだ』
「先ほどから一体……」
『あぁ、すまない。この体は正直でな、思ったことが勝手に声に出てしまう。それにもともとお喋りなんだ、関係ないことまで話してしまう。前の契約者にもよく叱られたものだ……まぁ、何千と前の話しだが』
「おい、それ長くなるだろ! 早く話せタイガ!」
「っ……この! なんて口を利くんですかラーイン! このお方は――――」
『良い良い、その言葉も懐かしい。何万回と言われてきたからな……では、本題に入る前に用意をしておこうか。 今代の魔王、そしてその歴史ある力で生き抜いた真祖よ――今からの言葉に決して虚言はないということを、〝精霊王〟の名に誓っておこう』
〝精霊王〟と名乗る人物を簡単に信じたわけではなかった。
当然だ。いきなり現れた人族が何を言っているんだと、口から出そうになった。
しかしプルメスは、その人族に傅いたリーラの姿を見て……何も言えなくなってしまった。それにこの状況を、たった今呼び出している他の王たちにどう説明すればいいのかで頭を埋め尽くしていた。
『あぁ、そうだ。他の者たちは既に対応した。こちらに向かって来ていた者たちは急用を思い出して帰っていることだろう』
「なっ……!?」
『話しが長引いては困るからな、この体に馴染みすぎてしまっては他の隙間がなくなってしまう。それでは本題に入ろうか――――この体の持ち主の名は、平 大河。日本という異世界からこちらへ漂流してきた者、そして亜人・魔人を救う者だ』
「い、異世界……何を言っている?」
『詳しく話す時間はない。この男が異世界からやってきた、亜人・魔人たちを救う存在だという認識であればいい』
既に上半身は裸であるが、あろうことか下まで脱ぎ始めた。
すると、今までどうやって隠していたのか理解できないほどの大きさの物が露わになる。
『見ろ、ここまで繁殖に向いている肉体があるか? どうやら人間の中で最も繁殖に向いている時期でもあるが、そんなこと以前にこの体は特別だ。これでお前たちを救うことができるだろう』
「……うぉ、スゴイのでてきた」
十年間も三大欲求の一つを禁止していたプルメスにとって、そのいやらしい存在は一瞬にして我を忘れさせた。相手が精霊王だと分かっているはずなのに、無意識に一歩近づいてしまったほどだ。
しかし我慢ができなかったのは、何も魔王だけではない。
ラーインも、リーラも、シャメリーも全員がそれに釘付けになってしまっていが……一番釘付けにされていたのは、吸血鬼の女王だった。
「ちち……血が、血が、血がすっご~い。えへへへ」
「おいロージア!? 大丈夫か!」
ふらふらと立っているのもやっとな様子を見かねてラーインが駆け付けた時には、時既に遅し。大河の血の匂いに酔っ払ってしまっていた。
あの太い血管を触らせろと半狂乱状態でラーインに取り押さえられている姿を見かねた精霊王から出た言葉は、
『これは……すまないことをしたな』
シンプルな謝罪だった。
「なぜ精霊王様が謝るのですか、きっと彼女は――――」
『ここに来る前にも言っただろう? この体は大河のものだが、中身は精霊王そのものだ。要するにこの力に酔ったのだろう』
本来ならば、親和性の高い魔力を持ったエルフと契約することができ、一度契約すれば死ぬまで契約が破棄されることはなく、共に生きることになる。
それが精霊という存在である。
しかし……
「んんっ! 何故その男と契約することができたんだ?」
『契約ではない、勝手に繋げているだけだ』
「そんなことがありえるのか?」
『異世界から来たと言っただろう。大河の記憶を見たが……大河の住んでいた世界には魔力という存在がなかった。つまり、大河の体には魔力が一切馴染んでいない。だからこそこの
「どうした?」
『どうやら大河が目覚めた。……何やら面白いことをやっているらしいな、確認しにいかなければ。時間がない、手短に話す。今回の取引とやらを大河が破壊した、もしかしたら人族とは今後一切の取引ができない可能性がある。しかし、そんなことは大した問題ではない』
脱ぎ捨てた下着を履きながら説明する姿は、本当に精霊王なのかと疑うほど滑稽に映る。しかし、それが大河の姿をしているとなれば何となくいつも通りな気がしてくるのだから不思議である。
『この男を頼れ。優しく、素直で、少しまぬけだが、仁義がある。きっとどんなことでも手伝ってくれるはずだ』
「それは一体どういう……」
『人族との取引を終わらせた代わりに子種を寄越せ、とでも言えばいい。責任感が強い男だ、責任を取れと言えば取るだろう――――いかん、もう行くぞ。精霊の民よ、この体が目覚めるまで頼んだぞ』
「もちろんです」
「ま、待っ――――」
『あぁ、それと。大河には精霊さんで通ってる、くれぐれも精霊王などと呼んでくれるな? 今の心地よい関係が壊れてしまうかもしれない――――ではな』
体から白銀の魔力が抜けていき、大河の体が倒れ始めた。
それをリーラが受け止めると……ようやく不思議な緊張感に包まれていた雰囲気が解けていった。
「なんだったんだ……一体」
突如現れた――平 大河……と名乗る精霊王。
これだけでも話しについていけないというのに、ラーインやリーラには特に変わった様子はない。魔王補佐としてほぼ毎日共にいるシャメリーも混乱はしているが、話しにはついていけている様子だった。
「魔王様、まずはこの状況を……わたしから説明させて頂きます」
「作戦はそれからだなぁ。シャメリーもよく聞いとけよ」
それからリーラたちから淡々と聞かされた大河の有用性とヴォルフアオーンでの惚気話に、プルメスは真剣に耳を傾けたのだった。
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