第30話 ヤリ部屋を抜け出して

 ドクン!

 ドクンッ!

 心臓が跳ね、荒く呼吸をするのを感じとる。


「んっ……! んぅ!? ――――ん゛ぉ!」


 誰かの喘ぎ声が聞こえた時、自分の掴んでいる柔らかい物体を引き寄せながら体の力が強く抜けていく感覚が襲ってきた。


「はぁ、はぁ……」


 ドクンッ、ドクンッと、心臓の音がする度に体の疲れが増していく。

 気怠さに加えて背中やら肩やらの筋肉が痛む。


「おいタイガ、まだワタシは足りてねぇぞ?」


 背中から抱きついてきたラーインを受け止めた衝撃で――ようやく、ぼやけていた意識が覚醒し始めた。

 うす暗い部屋、大きなベットには二人の美女が肩を上下させ痙攣しており、目の前には艶のある褐色の背中と手形のついた淫らな巨尻。


「(えっろ……)」


「早く出し切れよっ」


 背後からの一押しによって一突きすると、尻の肉が押し込まれ獣のような声を上げ痙攣して力なくベットに倒れ込んだ。

 女が倒れ込んだことで挿入していたモノがどろりと白い液を滴らせながら抜けるも、未だにそれは熱く大きく固いまま。


「うっひょー! まだまだできそうだな、えぇ!?」


 ラーインが背後からそれに手を伸ばし、最高の状態だと言わんばかりに弄ぶ。


「次! 次はワタシ!」


 そう言ってベットに四つん這いになり、誘うようにやらしく尻を振るラーインを見て大河は思う。


「(…………こりゃ、夢だな。夢なら――――いっか!)」


 とうに理性など働いていない大河の脳内を見えるのならば「尻」と「H」と「洗脳」の言葉が浮かぶことだろう。自然と動く体に身を任せて、吸い込まれるようにラーインにゆっくりと挿入し腰を動かし始めたところで――――大河の意識はまた、闇の中へと沈んでいった。





「……はっ!!? ――――いっつぅー……!」


 脳がピクリと反射し、意識が急激に冴え渡っていくことで目が覚めた。

 それと同時に全身を襲う痛みに体が悲鳴を上げ、涙袋からじわりと出したくもない涙が溢れてきた。


「すぅ……ふぅー、体がバッキバキだ。…………なんで?」


 周りを見た所、どこかは分からないが一人部屋。

 窓はなく扉もなく誰にでも出入りが可能な入口があるだけ。その出入り口の先に見えるのは無機質だが美しく積み重ねられた石壁だった。


「そういや……魔王城に来てー、魔王と会ってー、スケベにあってー……からの先が全く思い出せん」


 記憶が途切れていると言えばいいのか、思い出せそうで思い出せないと言えばいいのか、なんとももどかしい気持ちだ。

 まぁ……だけどこの気持ちは思い出す以外に解消する方法がないないのも事実。いつも通りにしていれば、いつの間にか忘れていることだろう。

 それよりも今はこの体、特に背中側。信じられないほど痛い。


「精霊さん、これ治せる?」


『治せるぞ』


「じゃあ、頼む。これじゃ起き上がるのも厳しいって」


『分かった、


 ふわっと大河の体から白い魔力が舞い上がると、一瞬にして痛みが引いていった。この魔法なのかも分からない異次元な力に本当に治ったのかと少し疑ってしまうものの、体を動かしてみると全く痛みがないから不思議である。


「ふぅー助かった。背筋が痛いとこんなに動くの辛いんだなぁ」


 この世界に来てからあんまり動いてなかったこともあってか、体が鈍っているのが分かる。筋肉も少し衰えているんだろう、でなければ全身筋肉痛になんてなるはずもない。


「さてと……ここはどこだ~?」


 ベットから起き上がり出入り口から体を出そうとした瞬間、目の前に現れた黒い壁に阻まれぶち当たる。


「いてっ!」


 だがその黒い壁は大河に当たった時にバラバラに砕け散り、空気中に溶けるように霧散していった。


「っつー……! なんだ今の?」


 感覚的には木の板を頭突きで割った時の痛み、または起こしに来た母さんのお玉の一撃くらいの痛みだ。


「まっ、いっか。通れるようになったし」


 ズキズキと痛む額を抑えながら、周りを確認するとどうやら部屋はここだけのようだ。一本道の廊下に部屋が一つ、窓ガラスなどの外が見える場所は一つもなく、明かりはランプの形をしたものに光る石が置いてあるだけ。


「とんでもなく怪しい場所だなぁ、ここは。下なのか上なのかも分からん……どうせ考えても意味ねぇし進むか――――」


 指を一舐めし、風の流れを確認する。


「うーん……分かんねぇけど、こっちだな」


 全く風の感覚はなかったが、勘が左に行けと言ったから左へと進んでいく。

 すると、下へ向かうための階段を見つけた。


「おっ、ラッキー…………い?」


 だが、下を覗いてみると大きな問題がそこにいた。

 大きな体、金色の毛、隠しきれていない獰猛さ……


「ライオン……いや虎か、たてがみねぇし」


 ライオン獅子である。

 だが、驚くのは大河の浅い知識ではない。

 体のサイズが見たこともないくらい圧倒的に大きいのだ。

 動物園で何度も見たことがあるライオンは、立ち上がって二メートルくらいだった。飼育員さんも言っていたが大きくても三メートルないくらいのはずだ。

 しかし、大河の視線の先にいるライオンの大きさは目測でも五メートルくらいある……いや、もしかしたらもっと大きい。


「何を食ったらそんなデカくなんだよ……もしかして異世界ここには大きくなる食べ物でもあんのか? だったら俺も食いてぇなぁ」


 そしたら身長も180超えるのに……って、そんなこと考えてる場合じゃねぇ。

 あれ――どうやって乗り越えよう……。

 脚力的に飛び越えるのは無理だし、戦うなんてもっと無理。

 うん、気配を出来る限り消してそろりと通り過ぎるしかねぇな。


「(ひょえぇ~、近づけば近づくほどデケェなぁ)」


 聞こえる寝息も親父の比ではない。口の中で工事でも行われているのかと疑ってしまうほど大きい。

 体も大きい分、全てのスケールが大きすぎて段々受け入れるのが面倒になってきたくらいには大きい。異世界スゲェよマジで。


「(ゆっくりだぞ、ゆっくり。落ち着けぇ俺)」


 尻尾側を通るのは非常に怖い、もしも踏んでしまったらと考えるだけでもおっかなびっくりだ。

 だからこそゆっくりと、今まで以上に冷静に一歩一歩を進めていく。


「(はい、余裕でしたぁ! うわぁ、マジで怖かったぁ~!)」


 振り返ればグォゴロロォーと寝息を立てるライオンの姿があった。

 本当に猫科か? と疑わしいほどの爪が見えるが、それも今となっては可愛いものだ。なんせ、ここを静かに通り抜けることができたのだから。


「(ほんじゃ、また下に行きますかね)」


 気を緩めずに忍び足で階段を降りていくと、ようやく普通の間取りに見える景色が見えてきた。

 窓ガラスがあり、明かりも全体を照らしている。赤い絨毯が敷かれた廊下が綺羅びやかに映るということが分かったところで……なんとなくどこか察しがついた。


「(ここが魔王城か……)」


 窓ガラスの近くに立って眺める外の薄暗い景色。

 分厚い灰色の雲が太陽を閉ざし、冬の朝を思い出させる。

 リーラだったか、エルダだったか、クォーミァだったか、誰だったか。それは思い出せないが、その会話の中で「魔王は北に住む」ということだけはなんとなく憶えていた。


「(ここは冬……ヴォルフアオーンは夏だった。この世界は四季がバラバラなのか? それなら東と西はどうなってんだ?)」


 まだまだ知識として、常識として、この世界について分からないことが多すぎる。

 

「(まっ、それは後で聞けばいいだけだ)」


 外の景色を眺めていて分かったことがある。

 それは、この階層が上だということだ。


「(取り敢えず、下だな。この階段を降りてけば、誰かには会うだろ)」


 よしっ、と何かの気合を入れ直して窓ガラスから体を離して振り返る。

 すると……


「え?」


 先ほど階段で眠っていた大きなライオンが、大河の行く道を塞いでいた。

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漂流した先は異世界でした 豚肉の加工品 @butanikunokakouhin

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