第34話 冒険者(仮)から名探偵(笑)へ転職
あれから大河は、シャメリーと共にこの世界のことを勉強していた。
場所は会議室のような場所から移動して、最上階に用意された大河の部屋……もといヤリ部屋。
「――――というわけで、この世界では大河様が思うような平和はありません。私たちだって喧嘩くらいしますし、人族だって
「ふむふむ」
「まぁ、小競り合い程度です。大戦に現れた女神の影響で、人族では女性有利な社会。男が上に立っていた時代よりかは少ない、というのが現状です。当然私たちも魔王様の誓約によって力が制限されているので言い争いか殴り合いくらいですかね」
「ほうほう」
「そして地図はこちらになります。現在、大河様がいるここは北の地 デモンズノ。大河様が漂流してきたのが南の地 ヴォルフアオーン。環境が真逆なので大河様が住むのは少し大変でしょう。生活するなら東の地 オーガシラの方が適していると思われます、西の地 ドラクリティーはデモンズノの吹雪の影響で少し気温が低いですしね」
広げられた世界地図で地形を見るに、亜人・魔人たちの大陸の形は横に広いひし形と言ったところだろう。区分は平等ではなく、北の地 デモンズノが一番狭く他が同じくらいだ。
季節は春夏秋冬と日本と変わらずのようだが、東西南北で季節が全く違うようだ。北が冬、東が春、南が夏、西が秋、と言ったところだろう。
「ちなみにこの地図は私たちで作った最新版になります。隣にあるのが人族が住む大陸ですが私たちのよりも大きいですよね?」
「確かに……あとなんか、俺の知ってる大陸っぽいな」
世界地図でいう上にある大きなやつだ。
なんだっけ……ユーロシア大陸、ん? なんか少し違うな……
あ、ユーラシアだ、ユーラシア。あのロシアある場所ね。
「余談ですが、ならどうして私たちの大陸がこんな綺麗にひし形になっているかと言うと、今から二百年ほど前に前〝魔王〟と前〝龍王〟が喧嘩をしたからです」
「(形が変わるほどの喧嘩って……?)」
「とまぁ、私たちの知識と言ったらこのくらいでしょうね。人族ほどドロドロしてないですから、分かりすいですよ」
「人族に関しては? あんまり話してないけど」
「うーん……人族に関しては、あまり気持ちの良い話しがないんですよね。私たちと人族で起こった問題は、ここ十年で思った以上にぐちゃぐちゃになったので……」
シャメリーの表情が分かりやすく歪む。
その顔から察するに言いたくないことがあるんだろう。
「んじゃ、俺が聞いたこと答えてくれ。俺の友達から貰った知識とすり合わせたい箇所が何個かあるんだよな」
と、言ってもまず聞きたいことは――――
「誰が味方なんだ? これは俺の味方じゃなくて、皆の味方の話しだ」
俺の味方は言うまでもなく、俺が出会った人たちだろう。
まだ会ったことがない人まで味方になるなんて都合の良い話しはない。
だが、亜人・魔人の味方は一体誰なのか……それをはっきりさせておきたい。大陸の形を変形させるほどの喧嘩をしたなんて聞いたら、そりゃ聞いておかないとマズイ話しだ。
「私たちの味方は当然、亜人・魔人大陸に住む者の全てですよ」
「そういや人口は聞いてなかったな、何人くらい?」
「えーと、エルフが二十人くらいですよね……――――」
「ん?」
「鬼人が五人、龍人が三人、ドワーフが七人、魔人族が六人、獣人が三十人と少しくらいですから……七十人くらいですかね」
「いや少なっ!?」
よく国が回るな、その人数で。
地図で見た感じだと七十人で何ができる?
「原因は大戦が終わった後の最初の三年くらいですね――――」
復興する目処も立たず、どうすればいいのかという目標も決まらず、何から始めればいいのかと迷っている期間。
考えて見れば、あの時から既に人族の手の平の上だったのだろう。
体制も整わない間に〝精棒〟と呼ばれる餌を垂らし、こちらの資源や人を持っていかれた。
ちょうど最近からだ……資源だけを求めるようになったのは。
「もともと人族ほど人口は多くありませんが、何万人とあっちの大陸に持っていかれました。どうなっているのかは分かりませんが、毎日手紙が届くので問題ないのでしょう」
「言い方悪いけどさ、奴隷とかではないってことか?」
「そんなはずがありませんよ、しっかりと最初の取引の時に人族と誓約書を交わしましたしね。私たちほど幸せかどうかは知らないですが……全員生きていると思いますよ」
「そっか……」
そこは以外と平和なのか。
異世界と言えばそういうことがあってもおかしくないと思ってたけど、杞憂だった。流石に異世界転移して来たやつがいるかもしれないんだ……奴隷制度なんて、あったら消すよな普通。
「それに、魔王様は必ず取り返すと言ってました。人族の環境ではどの種族も力を十分に発揮できませんから」
「取り返すねぇ……」
それはあんまり想像はつかねぇな。
プルメスが取り返すことじゃなく、人族が返してくれるかっていう想像が。
それに――――どんな扱いを受けているのか、この目で判断してねぇんだろ。手紙なんかでどうやって信用しろって?
「(数は万、相当な人数だ……当然その中にはエルフもいるってなると――――)」
『取り返す、その一択だ』
「(……だな、でもそれじゃ生温い気がするな)」
俺は虎の威を借るやつが大嫌いなんだ。
強い先輩と仲が良いからって自分も強くなった気分でいる同級生にいた番長気取りのギャル男も、心底腹が立ったし、喧嘩売られたからボコボコにしてやった。
まぁ、停学はくらったが。
とにかく……自分は対して強くねぇのに、立場だけ強くなってふんぞり返ってるやつが大嫌いなんだ。
「(俺は、あの取引の時にあいつらが嫌いになった。あの二人だ……今思い出すと、補正が入って尚更に腹が立つ)」
『なら、まずは何をするつもりなんだ?』
うーん……、そういうやつに限って汚い手を使ってくるしずる賢い。
俺は忘れねぇ……呼びだれた場所に十人くらい待ってたことも、クソしてる時に上から水をかけられてあんまり使ってないスマホを壊されたことも。そして、その影響で停学中に出されるバカみたいに多い課題を、インフルに罹った中でやらされたこともだ。
「(シャメリーたちは正直者だ。俺だったらとっくに暴力で解決してるようなことを十年も我慢してたんだろ? まずは謝れよって話しだろ)」
十年つっても、プルメスたちの反応を見る限りそんなに長い間隔じゃなさそうだけど。それとこれとは別の話しだ。
あの取引で見た限り、あいつらは調子に乗ってるし勘違いしてんだ。
自分たちがずっと搾取し続けて来たから。
『エルフの力があれば資源などいくらでも増やせる。問題あるまい?』
「(大アリだ……)」
あのギャル男が、自分よりも弱いと思っているクラスメイトに漫画でしか見たことなかった「焼きそばパン買って来い」をしているように……亜人・魔人たちも人族の養分になっちまってる。
しかも、
何かあるんだ……あんだけの態度がとれる理由が。
じゃなかったら、人間はあんなふうにならねぇよ。
別に一方的にあれこれ言うつもりはねぇ、これがこの世界の常識――この世界の現状だと思えばそれまでだ。
「(俺は、俺の味方の味方だ。だから亜人だろうと魔人だろうと人族だろうと、良い奴は味方。でもな……あのホソイだがホソシだかって奴と会った時に思ったんだ)」
魔石に反応を示してた。
魔石を活用する方法を開発してた。
その実績の積み重ねが人族の発展と資源不足に繋がってる。
「(あいつらは危ねぇことをしてる、間違いなく余計な知識をもってる)」
『どうして断言できる?』
「(そいつを明日の昼に確認すんだよ……気になってることがあんだ)」
俺と同じように異世界から来てるやつがいるなら、それこそ危ねぇ。
大体のやつが俺よりも頭良いからな……その知識を利用されてるんなら、本当に危険だ。
特に人間が考えたものは。
◆
「それでは、転移魔法で先に貿易城に向かいます」
「あぁ、リーラたちは先に行っててくれ、俺は遅れて登場することにする。まだエルフになってもねぇしな」
「分かりました、あっちで待ってますね」
「ああ、まぁすぐに行くわ」
リーラとプルメスと別れ、一人になったところで深呼吸をした。
今日の取引でやることは多い。特に今回は人族の様子を伺うことが最重要だ。
発言の一つ一つに気をつけて、決して感情的にならず、これまで亜人・魔人たちが耐えてきた時間を無駄にしないように慎重に事を進めていかないといけない。
『お前に探るなんて器用なことができるのか?』
「おいおい、不安を煽るようなこと言ってくんなよ精霊さん」
『だがな……記憶を覗いたが、お前にそんなことができるとは到底思えん。そういったことを全て取っ払ってきた人生だった』
「単純……って言いたいのか」
『そうだ、言い換えれば……馬鹿だ』
「言い換えるのそっち?」
『それで具体的にはどうするつもりだ? 何を最終目的としている』
「最終的な目的かぁ……まずは――――平和」
亜人・魔人たちは自給自足ができてんだ。
生活していくには困ってない。おかしくなってる性事情は…………ま、まぁ俺が出来る限りのことをするしかないよね。どうせ出会ったエルフとはそういう関係になるって精霊さんとの約束だし。
そうだ、異世界風俗って店だそう。
色んな意味でとんでもねぇ名前の店だけど、それで解決だ。
ただなぁ……俺はもうラムルフを――責任をどうやってとるかだよな。
異世界って言っても一夫一妻だよな、基本。
俺って人間としてクズにならないといけない瞬間が来るのか?
くっそー、それ昨日聞いとけばよかったぁ……。重婚できたとしても喜んでいいのか分からないけど。
『何を悩んでいる? 会った女を全員孕ませればいいだけだろう』
「そうはいかねぇんだよ。俺のいた日本は一夫一妻、それに片っ端から子供作っていくって……なんか俺の心がぶっ壊れそう」
『そんなことを言っている余裕が本当にあるのか考えてみろ、大河。常識が通じないと混乱していたのは自分自身だろう? 言っておくが、お前がもしも迷子になってふらふら歩いていたら殺されるか犯されるかの二択だけだ』
「なんだよそれ……バイオレンス」
『男と知れたら、本当に一歩も外にいけなくなるかもしれない。特に最初に出会ったのが鬼人族だったら状況は最悪だったぞ? まぁ、獣人を四人も相手にできる性欲を持っているからそこは安心だがな。とにかく……そんな体裁に悩む前に、まずは自分の心配をしろ。お前の体を求めてくるのは、亜人・魔人だけじゃない……この世界の全てだ』
「なぁ~にが全てだ、んな大層なもんじゃねぇだろ。あー、でも実際に精霊さんと契約しちゃったもんなぁ。もしかして、本当にこの世界に求められてたりして……ってやかましいわ!」
『そうだ、モテモテだ。
くすりとも笑わねぇくせによく言うよ、ったく。
ホント……どっからそのいらない知識を得てるんだ?
俺の記憶を覗いてるってよく言うけど、まさかそんな下らないことまで覗いてるわけじゃ……ないよね?
「……はぁ、後のことなんて考え出したら切がねぇ。まずはこれから始まる取引についてだけ考えよう。どうせ、なるようになんだよ――――よっしゃ、精霊さん。俺の姿をエルフに変えてくれ」
『分かった。ん?……そう言えば、まだ何をするか聞いていなかったな』
「へっへぇ、見て驚くな?」
昨日、シャメリーから一枚の紙を貰い書いたものをポケットから取り出す。
『それは……記憶の中にあった文字だな、何に使う気だ?』
「これで、俺以外にこの世界に来たかもしれない――――異世界人を炙り出すんだよ」
今回は冒険者じゃねぇ……
体は大人、頭脳はアダルト。その名も――名探偵 大河だ!
『その文字でか? それは何だ?』
「あぁ、これは日本語って言ってな? 俺が使える唯一の言語だ、これさえあれば同じ異世界人を炙り出せる。意味は――――」
シャメリーから貰った一枚の用紙を広げて見せる。
そこに、やけに達筆で書かれていた文字はこうだ。
〝YOUは何し異世界へ?〟
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