第13話 お前ら、その耳……
クォーミァからの突撃を受け止めた大河は、まずその巨体に驚いた。
一番触れ合っていたのは獣人だと思っていたし、体の至るところが大きいとも思っていたが、そもそも身長が大きい。
177……いや180cmもある俺ですら、顔を見上げるほどの大きさだ。
通りでおっぱいや尻が大きいわけだと納得した。
「ようやく、ちゃんと会えたなクォーミァ」
「タ……タイガ? ワタシを見ても平気なのか?」
「平気だって。最初からそう言ってんだろ?」
改めて獣人とやらを見るも……ハッキリ言ってコスプレと変わらない感覚だ。
むしろ想像していたよりも人間らしくて驚いてるくらい。
いや……人間離れはしているか、特に体が。
「ほ、本当か? 嘘はついてないか? 嘘だったら噛みつくぞ?」
「だぁーー! 本当だっつってんだろ!? 」
そのデカ尻引っ叩くぞ。
「じゃ、じゃ……今日――――」
ワタシが一晩中、と続きを話そうとした瞬間に背後から襲いかかる黄金の気配に蹴落とされるように抱きついていた大河の体を離した。
いや、正確には完全に離してはいない。大河の体にまとわりつくように背後に回っただけだった。
「へぇ……ワタシたちを見ても大丈夫そうだなぁ?」
「あんたは?」
「おっと、自己紹介がまだだったか? ワタシはラーイン、魔王様から獣人の〝王〟を任されてるモンだ」
「王様……でも今のは――――」
スーパーサ◯ヤ人じゃないっすか。
「今のはちょっとした威嚇だった、クォーミァが危ねぇと思ったんでな。まっ勘違いだったが――まぁ何にせよ、お前がちゃんとワタシたちに興奮してくれんのが分かって良かったぜ」
ラーインの視線を辿るように自身の股間を見直すと、あれほどリーラたちに出したというのに元気一杯の姿があった。
気持ちはのってこなくとも……体はとても正直のようだ。
「これは……男だから仕方ないことだ」
「……いや? いいんだよ。お前がワタシたちに興奮してくれんなら、それで」
すぅーっと金色に光り輝いていた髪の毛が、光を失って金髪に戻る。
少し逆だっていたがそれも収まった。
「おい、クォーミァ」
「ん?」
「いつまでも嗅いでないでタイガを風呂に連れってやれ、近くにいるだけでムラついてくるその匂いを落として来い――――詳しい話しはそれからだ」
◆
エルフの魔法はとてつもないものだと、温泉を見た時にそう思った。
温度も香りも変わらず、ただそのままその場に温泉が残っている。
それに入ってから少し経った後に心身ともに洗い流された気分になった。
実際に体の小さな汚れなどは落ちている……が賢者タイムも洗い流されたため、近くにいたクォーミァを極力見ないようにはしていた。
しかし……
「なぁ、クォーミァ?」
「なんだ」
「さっきから近すぎない?」
身長は大きい、触れられた時に感じた得体の知れないパワー、髪の毛が犬の耳のような形に変形、尻尾は……普通に生えている。
どこを見ても人間とは少し違う部分が目立つ。
でもそんなこと大河にとって問題ではない、問題なのは――この服装だ。
「いや……なのか?」
「ううん、いやじゃない」
いや全然。もう本当は最高だよ。
でもダメなんだよこれじゃ。
ここに来てから起きてる間、ほとんどずっと勃起しっぱなしって……なんか変なプライドが許さないっていうか……なんというかなんだよ。
「とにかく、ちょっと離れてくれ。このままじゃ戻れなくなりそうだ」
ただでさえ勃つだけで邪魔くさいし歩きにくいっていうのによ……。
この世界エロすぎるだろ、っとによぉ。
てかマジよ~、お前らちゃんと服着ろって! それ乳首隠してるだけだし、腰に布巻いてるだじゃねぇか!
おかしくなるわ! 股間と頭が!
「じゃあ、どのくらい触っていい?」
「……手を繋ぐまでなら大丈夫だ――――」
と、思う。
「やった!」
「クォーミァ……それは手じゃなくて腕だ」
まぁ、我慢はできるな。いける。頑張れ、俺。
そう日本人の不屈の精神でクォーミァと共にラーインたちが待っている獣人の家に戻ると、そこにはラーインを含めた三人の獣人が座って待っていた。
灰色……エルフを見た後だからこそよりそう思える髪、そして身長はクォーミァよりも少し低い200cmには届かないであろう獣人。
そして青黒い髪が特徴的な、この中でも一際冷徹な瞳をこちらに向けてくる獣人。
「待ってたぜ、タイガ」
声を聞いて分かった。
少ししゃがれているはいるが、どこか女性らしい声が残っているそんな声。
「獣王様から話は聞いてたが……本当に大丈夫とは驚いた」
「そう、最初っから言ってただろ? ラムルフ……だよな?」
「あぁ、そう呼んでくれ。その方が体が喜ぶ」
「お、おう……ならそっちがフェイガーとか言われてたっけ?」
「はい、末永くよろしくお願いします」
こうして、普通に挨拶を終えるとなんだか心地良いものがある。
今まで近くにいるのに見えない状態だったから、その拘束感が無意識に緊張を生んでいたのかもしれない。
「こ、こちらこそ?――――あ、あぁそれで話しってのはなんだ? ラーイン」
温泉に行く前に話しがあると言っていた。
大方……まぁこの世界の問題に関してだろう。
王様っていうくらいなんだから、色んな問題が降り掛かってくるはずだ。
「話しってのはなぁ……まぁ、あれだ」
「なんだよ。あ、難しい話しは後にしくれるとありがたい。俺はこの世界のことほとんど知らないから」
現在知っている情報なんて人族以外の種族から男が消えたってだけだし。
「あー違う違う。その……リーラと、ヤって……どうだった?」
「そいつぁ、まぁ、最高だった」
瞼を閉じるだけでもあの光景を思い出す。
それも深く、鮮明に……感触すらも思い出せるほど。
世界でもごく一部でしか歓迎されないであろう肉棒をあんな乱暴に使える瞬間を、理性が全く言う事を聞かない瞬間を、味わってしまったのだ。
味わえるはずもない快楽の境地に達してしまえば、忘れることの方が無理だろう。
そう思えるくらいエルフの体に、俺は溺れてしまっているのかもしれない。
「……それなら、よかった。これで安心できる」
「安心?」
ぺたぺたと大河へと近づいていくラーインの姿。
そしてそれに追従する三人の獣人たち。
計四人が大河の目の前で跪いた。
「獣人の王として、この世界に来てくれたことありがたく思う」
「おいおい! そんなかしこまんないでくれよ!」
「そうはいかねえんだよ。自分がどれだけ稀有な存在なのか、どうしてワタシたちが〝希望〟と呼ぶのか……詳しくはエルダに聞いてくれや。でもな一つ忠告してといてやる――――」
走っている車の窓から頭を出した時のような、一瞬空気が吸えなくなる感覚。
それに感じたことのない肌を通り抜けて神経を押し上げていくような力。
目の前のラーインが解放した心獣の力……もとい獣人の力というのもを、これぞまさに異世界であると証明するかのように突きつけられた。
「お前が住んでいた世界とは違う……それは絶対に覚えておけ」
「……わかった。まだ実感沸かないけど、気をつける」
「ならいいんだ――――それじゃ、ワタシたちとイチャイチャしようぜ?」
一番近くにいたラーインから順に背後にいた三人が大河の体にまとわりついていく。まるで匂いを擦り付ける犬のように、満遍なく体をくっつけていく。
一番触れる機会が少なかったフェイガーなんて思いっきり腰に突撃してきた。
「お、おい! ……こんのぉ、力強ぇ」
思わずフェイガーの頭を掴んで引き剥がそうとするも、痛みのない絶妙な力でしがみつかれている。
しかし、あることに気がついた。
「え? 待て待て、え?」
「どうかしたのか? タイガ」
「おいちょっと待てラーイン! おいお前らも……俺に匂いつけてる場合じゃねえぞ!?」
「ホントにどうした? 声で子宮なんか震わせやがって……誘ってんのか?」
「そうじゃねぇんだよ! 耳だ、耳!」
「「「耳?」」」
俺は今確かにフェイガーの頭に触った。
でも、おかしい。
俺が知ってる獣人じゃない!?
「お前ら……その耳――――偽物じゃねぇか!!?」
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