第14話 心に住む獣

 獣人とは……耳が頭についているものだ。

 人間らしい耳が存在する部分は髪の毛で隠れ、主に目立つのは頭に生えている耳。日本に存在したメイドカフェの可愛い女の子とコスプレイヤーが主に付けている、ああいう感じだと――――大河は思い込んでいた。


「何を言ってんだ?」


 しかし、やはり異世界。

 二次元の想像など容易く超えてくる。


「な、何って……耳だよ耳。この犬みたいな耳……髪の毛じゃねぇか!?」


「いぬ?……ってなんだ?」


「耳なら普通についてるに決まってんだろ?」


「タイガ、いい匂いする」


「すぅー……ふぅ」


 こいつら……全く話しを聞いてねぇ。

 あと、フェイガーの尻尾の揺れが半端ねぇ。視界に入って少し邪魔だ。

 いやいや、そんなことは置いとけ。今は確認することがたくさんある。

 まずは、


「お前ら……一体なんの獣人なんだ?」


 見た目で何となく伝わってくるけど……これと言って決定的なものがない。

 髪の色が茶色で尻尾が細く、何やら本領発揮すると金色に輝くラーインはまんまライオンっぽいけど、他の三人は犬なのか狼なのかなんなのかさっぱり分からん。


「なんのって……獣人は獣人だろ?」


「俺の世界にはよ、色んな獣人がいたんだ。それこそさっき言った犬、狼、ウサギ、熊、鳥なんかもいた」


 ……でもお前ら、なんかちょっと違くね?

 確かに体の違いはある。

 ここにいる全員が176.8……いや180cmの俺よりも高いとなると200cmはあるだろう。それに普通に腹筋とか割れているところを見ると、体は相当鍛えられている。力なんて見かけ以上にあるはずだ。

 は〝獣人〟として全然納得できる範囲内。

 個人的な大きな問題はそこじゃない。


実質、獣要素を含んだ部分が尻尾くらいだということだ。


 髪の毛は全体的にかなり長い、ラーインなんて腰辺りまで伸びている。

 もはや髪の毛がマントのようにも見える……けど、長さだけで言ったら日本にだって探せばいるだろう。

 肌も……外で動いているからか少し色黒い、ラーインだけが少し白い程度だ。

 たぶん、外で活動してないのかもしれない。別の場所から転移してきたらしいし。

 あれ? なんか、見れば見るほど普通に人間に見えてきた。

 服装は……ほとんど肌が見えてる、本当に大事な部分を隠してるだけだし。

 てか、その収まりきってないおっぱいってどうにかできない?

 尻尾がついてるのも逆にエロく見えてきたなぁ……


「(うぉーい、いかんいかん。今はそんなこと考えるな~)」


「……タイガ? どうした、急に黙って」


「い、いや、どうして獣耳じゃなくて髪の毛なんだと考えてただけだ……よ?(大嘘)」


「それがあるとタイガはもっと興奮してくれるってことかぁ?」


 自分の頭に触れて、耳のように跳ねた髪の毛を撫でるラムルフ。同じようにクォーミァとフェイガーもそうやって確かめていた。

 しかしラーインだけは目を見開いて大河を見つめている。


「お前の世界にも獣人がいたのか?」


「へ?」


「いや今そう言っただろうが」


「あ、あぁ……まぁ似たような存在がいたってだけだ。日本は想像豊かなんだよ」


「……なるほどなぁ。だからワタシたちを見ても何とも思わないのか……もしかして他のもいたりしたのか? 例えば――――〝魔王〟とか」


「ああ、いたぞ」


 魔族と呼ばれる存在と勇者と呼ばれる存在が敵対する物語なんて、いくらでもあった。基本的に悪い方が魔族――つまり魔王だったけど、俺は魔王の方が好きだったなぁ~。女の子だとカッコエロいから。

 あ、そういや7割が敵として出てきて3割くらいが味方として出てくるって、勝手な統計を友達が出してた気がするな。高校の時の自由研究で宿題そっちのけでやってたっけ。


「……ッ!!?」


「あ、でも勘違いするなよ? 実際にいたわけじゃなくて……こう創作物としてそういうやつがあったってだけだ。本物の魔王がいたってわけじゃねぇ」


「……んー? どういうことだ?」


「説明すると長くなるんだよなぁ。まぁ、俺が住んでた日本って場所には色んなものがあるって思ってもらえればいいや。そもそも説明できるほど知識ねぇし――――そんなことよりも、だ。俺の方が聞きてぇんだけど、なんで尻尾はあんのに耳がねぇんだ?」


「尻尾は昔からあったしなぁ~」


「耳はちゃんとこっちに付いてるし」


 どうやら獣人たち本人もあまり分かっていないらしい。

 特にラムルフとクォーミァに関しては、本当に何も分からなそうだ。


「このような形をした髪の毛は心獣の影響ですよ?」


「神獣……神の獣?」


「神の獣ではなく、心の獣のことです。ワタシたちの力の根源ですね」


 格好はしまらないが、太ももを抱きしめているフェイガーが物凄いまじめな表情で心獣という存在を説明し始めた。


 それは獣人が生まれた瞬間から魂に宿す、大いなる力。

 人族でいうところの【加護】という力に近いが、存在を変えてしまうために根本は違うと言われている……証明不可能な偉大な力。

 その力には〝かつての獣〟が住んでいると言われており、心に宿ることによって力を解放し姿形を変えていく。


「つまり……ワタシたちは獣の力を宿した人、ということです」


 心獣を宿してから、より〝かつての獣〟に近しい容姿になっていく。

 髪の色も変化するし、肌の色も変化する。

 当然、圧倒的な力を持って生まれてくる獣人もいる。

 その代表例が――ラーインや、かつての〝獣王〟たちである。


「なら……それすなわち人ってことでは?」


「それを良しとしないのが人族ですから。獣が混じっている存在のどこが人なんだ……って。まぁ、それ自体はどうとも思っていませんし人族と同じにされるなど――――死んでいるのと同じですから」


「(そこまで言うの? ……ここまで来ると、逆にこの世界の人間に会ってみてぇな。常識が違うから仲良くなれるか分からんけど)」


 聞けば聞くほど人族が嫌なやつに思えてくるが、片方の意見ばかり聞いて主観的に他人を嫌うのは主義じゃない。

 でも……なんか嫌なやつそうではある。


「まぁ……なんだ、うん。ともかく獣人に関しては少し理解できた。ようするにあれだろ? 耳の形をした髪の毛を生やしてる尻尾ついた人たちってことだろ」


「いや違いますが……」


「いや、これでいいんだよフェイガー。俺の認識は間違ってない当たってる……当たってるってことにしとけ」


 なんか常識外れなことばっかりで認識が違う。これ以上考えても、理解はできてもそう簡単に馴染むことはないだろう。

 日本人の俺にはこれくらいの認識で丁度いい。

 うん……難しいことなんてひとまず置いといて、背中に当たってるクォーミァのおっぱいを堪能しよう。


「……まぁ、それならそういうことにしておきましょう。ワタシも今は――タイガに匂いをつけることで忙しいですから」


「そんな真面目な顔して言うことか? それ」









・あとがき


あとがきとやらを初めてやります、少しチラ見していって下さい。

この獣人の形は自分のただの性癖です。

自分には獣人という種族でやりたくない設定がありました。

一つ、獣耳があるから髪の毛で人の耳の部分を隠して曖昧にしてるパターン。

二つ、獣耳があって人の耳があるパターン。

三つ、通常は人だけど力を解放すると獣に変わるパターン。

四つ、尻尾だけ生えているパターン。


これらをなんかいい感じに解消できないかなぁ~って考えた時に、生まれたのが第14話のこのパターンでした。

ちなみに尻尾は先祖の遺伝的なものです。

心獣を宿し尻尾が生えた獣人が子孫繁栄していった結果、尻尾だけが残ってしまった感じ。当然、心獣の影響で尻尾も変化していきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る