第12話 手に入れた自由
ふと、体に重みを感じて目が覚めた。
天井が見えないほど暗い空間に、柔らかいベット、この見たことがない雰囲気を改めて感じた時――――
「(あ、俺って異世界来てたんだった)」
嬉しさ半分、途轍もない虚無感が押し寄せてきた。
その虚無感の答えは、既に瞳に映っている。
両手を抱きしめるように眠るリーラとエルダ、両足にしがみつく二人のエルフ、そして胴体に覆いかぶさり寝息を立てる一人のエルフ。
この五人としこたまヤって、我に返った代償――つまり〝超賢者タイム〟が虚無感の答えだと言える。
「しっかし、ここは一体どこなんだ? いつまでもここに住めそうなくらい空気が快適だけど……体動かさないと元気でねぇーよなぁ」
冷静な今だからこそ思うが、エルフは意外にも力が強い。
触れている感覚はどんな形にでも変形できるほど柔らかスライム肌だけど、このしがみついている力はどうにも剥がせそうにない。
それに――――
「元気でないとか言って……出ちゃうのが男ってもんだよなぁ」
この肌、この香り、この姿。
記憶が飛ぶくらいヤった痕跡がしっかりとベットの上に証明されている。
正直言って、こいつはエグい。俺ってば人間やめたかもしれん。
「とにかく、外に出てぇな……」
ふぅ、と一つため息を吐くと同時に零した言葉。
イメージしたのは今の状態になって顔を合わせたい人物と外に出たい欲求。
脳内で明確に浮かび上がった状態で、想像を言葉にした大河に、この精霊樹が応えた。
◆
リーラが大河を連れて精霊樹へ転移して丸一日が経過した。
精霊樹では時間の流れが現実とは異なり、遅くなったり早くなったりとエルフたちですらも分からないほど時空が歪んでいる。
それも全て〝精霊〟と呼ばれるエルフだけに力を貸す存在が、精霊樹で戯れているからである。
「おい、少し落ち着け。クォーミァ」
「うん」
「…………はぁ、ダメだこりゃ」
先程から家を動き回っているクォーミァにラーインが注意をするも、返ってくるのは空返事ばかり。爪をかじってみたり、壁を引っ掻いてみたり、長い黒髪を毛づくろいしてみたり、机に登ってみたり、椅子に立ってみたり、外に行っては戻って来たりと……本当に落ち着きがない。
そんな時――――
「あ?」
「ん?」
「……っ!?」
突然、
「……臨戦態勢」
獣王が小さな声で呟くと、家の中でも一番扉に近い位置にいたクォーミァが足に力を込める。
獣人ならではの暴力的な身体能力での正面突破。付近に現れた存在まで一秒すらもかからないであろう速度で、敵をぶち抜くという力技だ。
「心獣が知らない匂い、精霊の気配、知人のエルフってことはなさそうだ。気を引き締めろよ、クォーミァ」
「うん」
ラムルフがクォーミァに問いかけると、コクリと小さく頷いて返事をした。
「お前は妊娠してんだから動くんじゃねえぞ、ラムルフ」
「一瞬で終わらせる……」
徐々に近づく未知の気配。
まるで何かを探しながらふらふらと付近を歩いているようにも感じるが、決して油断することは出来ない。
何故ならば、戦いが一方的でなければこちらに犠牲ができてしまう。
「じゃぁ、突撃してくる」
〝
獣人とは、生まれるまでは遺伝子的に人族とほとんど変わらない生命体だが、その大きすぎる力によって変わった容姿から〝獣人〟という名がついた。
その心獣というのは、人族たちで言う【加護】と呼ばれる力と継承のされかたこそ似ているが、中身は全く異なり――存在自体に影響を与えるほどその力は大きい。
耳が生えているように見える髪の毛、尾骶骨に生えている尻尾、何より瞳孔や歯の形、肉体の大きさまで全てを変える。
人が、魔法や武器がない環境にて……
戦いに特化した進化の果て――――それが獣人である。
「援護してやるよ」
クォーミァが周りを気にせずに踏み出した一歩。
それは人族と変わらないただの一歩である、しかし発する爆発的なエネルギーも速度も天と地の差があった。
全て木造で作られたログハウスの床が悲鳴を上げ爆散すると、クォーミァの姿が消え、真っ直ぐ走った形跡だけが残る。それを援護しに言ったラーインの痕跡も同じだ。
だが、その超加速も未知の存在に近づくに連れて徐々に減速していく。
何故ならその存在の匂いを――本能的に知覚していたからだった……。
「ほぇ……こんな場所だったのかぁ。こっちの建物がエルフの家で、こっちが獣人たちの家。獣人の方がデケェんだなぁ……サイズ違い過ぎて普通に分かるけど、看板あるの面白いな。文字は読めないけど」
精霊樹から
周りを見渡せば大森林、そんな場所でやたら開けた場所に二つの木造建築が建っている。何だか秘密基地みたいな感じだ。
と、楽観的に観察していると獣人の家から爆発音が聞こえ――――
「うぉ!?」
振り返った先には、
「(おっぱいッ!!?)」
黒髪黒肌の獣耳が生えた女性がこちらに突撃してきた。
それを――――
「うぐっ!!?――――よいしょぉおーー!」
気合で受け止める。
痛みは多少あるが、攻撃的での痛みはない。
むしろこれは……うちで飼ってた大型犬に突撃された時と同じ気分。
……元気かなぁ。シロ、シロタロウ、シロジロウ。
「この匂い……――」
「お、この声――」
「タイガ!」
「クォーミァか!?」
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