第8話 温泉だって作れちゃう
宙に浮かされ、連れて行かれた場所はそう遠くない場所。
匂いからして森の中だろう。
「ここで作りましょうか」
「おいエルダ、タイガを縛ってる縄の量が少ないぞ。逃げられたらどうする?」
「俺は人間だぞ、このかってぇ縄解けるわけねぇだろ!?」
「油断してはいけない、何が起こるのか分からない。それがこの世界の鉄則だ。もしもタイガの縄が勝手に解けたらどうする?」
「んなわけあるか! お前らが縛ったんだろうが!」
「タイガ、落ち着いて。イチジクミルク舐める?」
「お前……なんでそれを知って――――」
エルダ、ラムルフ、クォーミァ、フェイガー、そしてエルフの家に住んでいた三人のエルフ。合計八人で森の中に来ているというに、とても騒がしい。
ラムルフやフェイガーの二人に会うまで、少し緊張していた大河も――
『タイガ、もうそんなに緊張すんな。ワタシ……いや、ここヴォルフアオーンに住む獣人とエルフはもうお前を男だと信じてるからよ』
『あぁ……それなら普段通りにしてもいいのか?』
『当然だ。これからはワタシたちと一緒に生きていこうな』
『それは……そうするしかないから良いんだけどさ、ならこの目隠しと縄をどうにか出来ねぇのか?』
『無理だ』
『即答かよ!』
こんな会話があってすぐに打ち解けた。
エルダに関しては、平 大河という人間の知識を入れたことによって、少し対応が甘くなった気がする。
あと数回のアタックでこの目隠し……いや縛ってる縄くらいならどうにかなりそうな甘さを感じる、勘違いじゃなければだけど。
「ほらほら皆さん、少し避けて下さい。怪我しますよ」
「タイガこっちに来い。何かあって縄が解けてはかなわん」
「だから……解けたところで逃げねぇって」
「それじゃお風呂……いや鬼人族の温泉よ、湧き出なさい」
木が場所を譲り、大地が変形する。
目を隠していても聞こえてくる音は、今までの人生で聞いたこともない音だ。
それに嗅覚が教えてくれている……
「硫黄の香り……それに少し酒の匂いも……」
「鬼人族の温泉をそのまま作りましたからね~」
「やっぱり鬼って酒が好きなのか」
「うぅ~……凄い匂いだ」
どうやら獣人には堪えるものらしい。
まぁ、それもそうかと納得する。なぜなら温泉が好きな日本人ですらもこの香りを好きになれない人がいるからだ。
「さ、タイガ様。一緒に入りましょうか」
どうやら獣人と違ってエルフは体を全く鍛えていないらしく、どこもかしこも触れているところが柔らかい。背中で感じる体格は細いが、少しだけ肉付きがいい。妄想を膨らませるに……恐らく尻もデカいだろう。
こうして俺は、内側に一切の筋肉を感じない水風船のようなおっぱいに支えられながら湯につかった。
◆
魔王大陸 デモンズノ――かつての大戦の地。
復興してから街並みを取り戻したが、消え去った人々の影響でどこか閑散としている街中の奥にそびえ立つ魔王城。
「今月も……ダメみたいだな」
「人族の精子が貧弱すぎるだけだろう。気にすることはない」
「それでも十年間人口が増えていない。このままでは破滅を辿るだけだぞ?」
「わたしの魔法で数人攫っちゃいますか~?」
「物騒なこと言うな。もしも戦争になったら我々が勝利するとは言え……戦いの後に未来はない。残り少ない我々の同士を救うためには……この方法しかないんだ、分かるだろ?」
亜人・魔人大陸に住まう、それぞれの種族の王たち会談。
食料、住処、生活水準、あらゆるものを回復させてきたが……それでも一つの悩みごとは十年間変わらない。
「だがなぁ、手段を選んでいる時間があるかどうか……。いっそのこと人族に化けて男を作るしかないのではないか? お主らには無理でもエルフと
「人族が住まう場所に設置してある判別持ちの扉を潜り抜けて、ですか?」
「ふむ……ではどうする? このまま時が過ぎれば自ずと滅びるのは我々だぞ。何か手を打たねば変化を呼び込むことすらも出来やしない」
大きな長机を囲むように座る面々が、いつもと変わらない問答で空気を圧する。
おかげでここにいる執事たちが立ったまま気を失ってしまっているではないか。
「やめろ、お前たち」
トンっと机に指を立て、一気に周囲を圧していた魔力を吹き飛ばす。
その人物こそ――先代〝魔王〟の子孫、魔王 プルメスである。
「たかが十年だ。人族と私たちでは寿命の年が違うだろう、解決する方法など次第に見つかる。今は先にもう少し大人に成長するべきだ、違うか?」
ある日、突然現れた神という存在のせいで消えた存在。
男はもちろんのこと、身籠っていた女までもこの大陸から消し去った。
その都合上……亜人や魔人の中で精神的にまだ幼さが残る年代しか生存していないことで度々起こる言い争いに、少々うんざりしていた。
「では魔王様はどうなさるおつもりで? このままでは何百年後に同じ顔を合わせることすら難しい状況ですよ」
「それは――――」
きっかけを待つしか、手立てがない。
そうやってこの十年間待ち続けて来たのだ。今更、人族の考えを取り入れ始めるわけにはいかない。
そうすれば、力無き今――瞬く間に人族に染まっていくことになる。
「はぁ!?」
いつの間にか力一杯に握りしめていた手の平から力が抜けていく。
内心では焦燥感に駆られていたところに、タイミング良く声を荒げたのは〝獣王〟の席に座るラーインであった。
「ん? どうした、ラーイン」
珍しく彼女の茶髪が金色に輝いたと思えば、かなり混乱している表情だ。
「ワタシの心獣が――新しい生命を宿したことを教えてくれた……!」
全員がその場に立ち上がった。
その場に固定している椅子は、濃黒石で作られたものにも関わらず、破壊するほど興奮している者もいた。
「ヴォルフアオーンでか!!?」
「どうやら、ヴォルフアオーンの周辺警備をやってる奴ららしい。国から少し離れてる海沿いの場所だな」
「……もたもたしてられんな」
「おい待て、ワタシらが行く」
「何故だ? 飛んで行ったほうが早いだ――いや、それは無理があったな」
「あぁ、冷静になれ。ワタシ以外が行って、正直に話しをしてくれると思うか? 獣人だけならまだしもエルフとも住んでるんだ。巧妙に騙されて帰らされるのがオチだろ――それなら、ワタシとリーラで行った方がいい」
「……話しは決まったな。では二人とも、よろしく頼んだぞ。報告を受け次第に私たちも向かう」
「分かった。行くぞリーラ」
「は~い。転移魔法ですぐに行きましょう」
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