第29話

「マジかよ。女装癖あんの……気持ち悪」


 瞬くんは目の奥の火をさらに燃やすように言った。

 わたしはとっさに野々宮くんの前に立つ。野々宮くんが燃えてしまわないように、障壁になるべく。


「瞬くん。気持ち悪いって、本気で言ってるの?」

「え……だって、そうだろ。女装癖あるなんて変態だろ? つばさは平気なの」

「野々宮くんのこと、そういうふうに言わないで。わたしは、瞬くんの目のほうがもっと気持ち悪い」


 瞬くんの目の火はしゅんと小さくなった。その隙をつくようにわたしはさらに一歩踏みこみ、瞬くんを睨む。


「わたしの胸ばかり、見るようになったくせに。そっちのほうが、気持ち悪い」


 瞬くんの火はついにたち消えた。それと同時にわたしの胸の奥から、重苦しい攻撃性が喉を這って出てこようとする。


「ストップ、つばさ。もう帰るぞ」


 じっと黙っていた野々宮くんがわたしの首根っこをつかむ。ぐいっと引きずられると、やっぱり力では敵わない。

 足がもつれそうになりながら、ぼんやりと立ち尽くす瞬くんを眺めていた。そうすると、とたんに目の奥が熱くなってきた。


 とりあえず家の近くの公園に寄って、ベンチでコーラを飲んだ。


「あのさ、あれは結構傷ついてた。たぶん……いや、なんでもない。その……なんというか、図星をつかれると、ダメージはでかいと思う」


 野々宮くんは口元をもごもごと動かす。ふた口めのコーラが進んでいなかった。その様子を見ながら、わたしは野々宮くんの言わんとしていることを探る。


「それは、瞬くんのことを言ってる?」


 野々宮くんはこっくりと頷く。


「今まで我慢してたことを言っただけだよ」


 いつからか瞬くんはわたしと遊んでくれなくなっただけでなく、わたしの目を見て話すことすらなくなった。

 いつも胸元に視線があるのは、うすうす感じていて、だけどわたしの自意識過剰だと思うようにした。

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