第32話

 わたしが発したとは思えないほど、鋭い言葉だった。

 瞬くんはわたしよりも驚いて、一瞬目を伏せた後に、マスクの奥で小さく溜息をついた。


 瞬くんに話したいことを自分の中でまとめてきたつもりだったのに、いざとなるとうまく口が動かない。

 瞬くんが冷たい空気を裂くように「あのさ」と切り出した。


「昨日、つばさが言ってたことなんだけどさ。お前に嫌がられるくらいに、見てたんだなって初めて気づいた。胸元に目がいく自覚はあったけど。でも目がいくのは自然なことで……いや、違うな。言い訳はよくないよな。ほんとごめん」

「……うん」


「男だからつい女の人の身体に目がいくってのも、あるんだけど。その……俺、昔からつばさのことが好きだった。一緒に虫取り行ったりとか、ゲームしたりとか、家族ぐるみで遊んだりとか。昔はなにも気にせずに遊べたのに、先に大人の女の人みたいになって、俺だけ取り残されてるみたいで。どう接していいかわかんなくて」


 瞬くんは短く刈った頭をかく。髪の毛がこすれる音が、忍び足で砂利を踏んだときの音に似ていた。


「わたし、瞬くんのことは大切に思ってる」

「……それは……」

「だから、またわたしとちゃんと友だちをやり直してほしい。いやなことはいやだって、今度から言う」


 まっすぐに右手を伸ばすと、瞬くんの目が丸くなった。それから徐々に細まっていく。一度目をこすった後に、瞬くんはわたしの手を強く握った。まめだらけでごつごつしていて、冬なのにとても熱かった。


 それに同じくらいの力で応えたくて、思いきり瞬くんの手を握ったら「いってえ」と瞬くんは笑った。

 それでも離してやらないで、さらにぎゅっと握る。握力やべえよ、と言う瞬くんの目は潤んでいた。


 こんなに笑った瞬くんを見るのは、久しぶりだ。昔みたいな甲高い声ではないけれど。

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