第31話
野々宮くんが選んでくれた言葉をひとつひとつ噛みしめると、じわりと甘酸っぱいものが口の中に広がり、それは確実にわたしを強くした。
コーラを飲み干すまでふたりでベンチに座っていた。すっかり日が暮れて、星が見え始めている。すっかり夜が早く来る季節なった。ふたりで寒いなあと腕をさすった。
「それにしても、つばさもあんなふうに怒るんだな。びっくりしたけど、嬉しかった。惚れ直したよ」
ははは、と野々宮くんは笑い飛ばした。
今とんでもないことをさらっと言ったような。確かめるように、ホレナオシタ? と言い返すと、野々宮くんは「惚れ直した」とゆっくり言い直す。
「好きだよ。つばさが。だけど返事は落ちついてからでいい。今は解決すべき問題が優先」
野々宮くんはわたしの手を掴む。いや、掴むというよりは添えるように指先に触れている、というほうが正しい。
それなのに、野々宮くんの手がひどく震えているのが伝わってきた。
次の日の夜、わたしはマンションの前で瞬くんを待ちぶせた。
瞬くんが帰ってきたのは夜の八時。こんなに遅いのかと驚いた。
暗闇の中にぼーっと立っているわたしを見つけて、瞬くんはさぞかし驚いていた。
「こんなに遅くまで部活頑張ってるんだね」
「うん。練習試合近いから」
瞬くんからは泥と制汗剤が混ざった匂いがする。昔は泥と汗の匂いがしていた気がするけど、体臭に気を遣うようになっているのだなと思った。
で? と瞬くんはおずおずと私の目を見る。
「……あの、昨日はごめんなさい。わたし、きつく言いすぎた」
頭を下げると、瞬くんが珍しく慌てて、あ、だとか、わ、だとか音を発した。マスクで顔が半分隠れているせいか、大きな目が忙しなく動いているのが目立つ。
「いや、その。俺こそ…………昨日はごめん。野々宮にも悪いことしちゃったな」
「うん。もうあんな言い方はしないでほしい」
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