第30話

 だけどそれが重なるたびに確信に変わって、わたしも瞬くんと距離を置くようになった。

 瞬くんはそういう人じゃない、わたしの大切な友だち。そう信じたかったけど、あの目はやっぱり嘘ではなかった。


 わたしがこんな身体じゃなかったら、わたしは瞬くんの隣で自然に笑えたのだろうかと、何度も考えて、ますます自分を嫌いになった。


 瞬くんとずっと仲よくしたかった。そうこぼすと、野々宮くんはわたしの頭をぽんぽんと撫でる。つらいねえ、とかすれた声が胸に広がって、息が苦しくて、泣いた。

 わたしはもう瞬くんと仲直りができないのかもしれない。そう悟ったら、涙が止まらなくなった。


「玉田ときちんと話したほうがいいと思う。幼なじみなんだからさ、仲悪いままじゃ気まずい」

「でも……」

「あのさ、つばさの言うことはわかるよ。人にじろじろ見られんのって気分悪い。コンプレックスならなおさら。けど、その……年頃の男の興味って、だいたいそんなものなんだよ。だから目がいく」

「……興味が胸に向くから、わたしが我慢しなくちゃいけないって言いたいの?」


 思わず強い口調になる。先ほど瞬くんに向けた攻撃性を、今度は野々宮くんに向けようとしている。ふっと我に返って、わたしは背中を丸めた。


「違う。仕方のないことだけど、仕方ないってあいつに言わせちゃだめなんだ。つばさがそれでつらい思いをしてるんだってことはわからせないと。あ、胸を見るのを許せって意味じゃないからな」


 野々宮くんは眉根を寄せる。彼なりに言葉を選んでいるのは、痛いくらいに伝わる。

 じゃあ結局どうしろというのだろう。胸を見られるのを黙って我慢しろということにならないか。


 ううん。いや、そうじゃない。

 わたしは丸まっていた背中をまっすぐに伸ばした。夕陽が飛びこんできて、思わず目を細める。


「……瞬くんと話してみる。言いたいことはまだたくさんあるから」

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