第6話
美しい子は「次の駅で降りようか」と言ってわたしの手を引く。
駅のベンチで鼻水を拭きながら、わたしはひたすらしゃくりあげていた。この美しい子に言いたいことがあるのに、出てくるのは嗚咽だけだ。それでもこの子はなにも言わずに、わたしの隣にいてくれた。
しばらくしたら落ちついてきた。美しい子は網目の大きいタイツを履いていて、骨が浮き立った細い足を組んでいる。
通り過ぎる人たちがわたしたちをちらちらと見ていた。美しい子を見ているのか、鼻水まみれのわたしを見ているのか。
「あの、ありがとうございました……」
「ううん。大変だったな」
見た目はとても美しいのに、口調はちょっと乱暴だ。
「いえ……なんで、わたしなんか……もっとかわいい子にしておけば、いいのに……」
「かわいいか、かわいくないかじゃない。
美しい子は眉間に深いしわを作る。あまりの正論にわたしは背中を丸めた。
「わたしが、ぼやっとしてるからかな……。痴漢にあうの初めてじゃないのに。早く気づいて離れていればよかったんです。ご迷惑をかけてすみません」
「初めてじゃないの? マジかよ」
美しい子の顔がぐしゃっと歪んだ。
余計なことを言ったかな。
実は、痴漢にあうのはこれで三回目だ。うち二回は下校中の満員電車の中だった。
そのときはだれも助けてくれなくて、途中で下車してお母さんに迎えにきてもらった。しばらく電車に乗れなくて、両親が交代で学校まで送り迎えをしてくれたこともあった。
ここ最近は痴漢なんてあわなかったのに。わたしが気を抜いたせいだ。映画のことばかり考えて、ぼーっとしていたから標的にされてしまったのだ。
途端に頭が重くなってきて、背中がまた曲がっていく。
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