第7話

「いや、あんたは落ちこまなくていいんだって。なーんも悪くないんだから背筋伸ばせよ。それより、大丈夫? これから」

「……あ、はい。でも今日は帰ります。親に迎えにきてもらいます」


 また電車に乗れない日々が続くのだろうか。お父さんとお母さんに迷惑をかけて、わたし本当にどうしようもない。

 この美しい人だって、きっと予定があっただろうに迷惑をかけた。


「あのさ、しばらくは一緒に登下校しない? 路線、同じだし。いつもあんたが同じ電車に乗ってるの、実は知ってた。でも痴漢にあってんのは知らなかった。ひとりより、ふたりのほうが安全だと思うし、なんというか……今までの償いというか……」


 ひとりで電車に乗るのは怖いので、だれかが一緒にいてくれると心強いから、その申し出はすごくありがたい。

 だけど、この人はなにを言っているのだろう。償いとかなんとか言ったような。

 わたしが返事に困っていると、美しい子はああもう、と頭をかきながらつぶやいた。


「とーにーかーく! 月曜日からは俺が一緒だから! いいね?」


 美しい子の勢いに押されて、わたしはこくこくと頷いた。



 そして来る月曜日。あの美しい子はいったいなんだったのだろうと考えながら駅へ向かう。

 わたしがいつも電車に乗っているのを知っていたと話していたけど、残念ながらわたしのほうはまったく面識がない。あんなにかわいい子なら目立つはずなのに。


「おはよ」


 考えごとをしながら歩いていたら、突然声をかけられた。足元から目線を上げた瞬間に、わたしはひっと息を呑む。

 野々宮くんが腕を組んで、むすっとした顔で立っている。朝からとんでもない人に会ってしまったなあと、嫌な汗をかいた。


「な……なぜここに?」

「はあ? 覚えてねえのかよ。たった二日前のことだろうが。しばらく一緒に登下校って言っただろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る