第8話
「…………きれいなお姉さんとはそんな話したけど……あ、もしかして、野々宮くんが代理で……?」
もしかしてあの美しい人は野々宮くんのお姉さんだったのだろうか。確かに目元が似ているような気も……。
あのお姉さんが来てくれたらよかったのに、よりによって野々宮くんとは。お姉さんもとんでもないのをよこしてくれた。
「そのお姉さんは俺だよ。どう見ても俺だろうが。俺だってわからずに話してたの?」
「はい……? なにを言って……?」
「まあ、仕方ねえか。女子の格好するときは、だいぶ作ってるからな、顔」
グレーのマスクをした野々宮くんは、どこか得意気だった。そしてわたしの隣に並び立ち、行くぞ、といつもの口調で言った。
「ああ、そうだ。ひとつ言っとくけど、俺があんな格好してることは他言無用で」
──ごめんなさい、話についていけないのですが……。
とりあえず慣れない愛想笑いを浮かべておいたが、野々宮くんは眉根を寄せて、「その笑いきもいわ」と言い捨てた。
朝はとにかく混んでいて、もみくちゃにされる。ときどき人の荷物が胸に押しつけられることがあって、それは特に痛い。
今朝はドアの近くにスペースを見つけて、野々宮くんがわたしをそこに押しこんだ。
向かい合うような姿勢になり、野々宮くんを見上げる。確かにあのお姉さんと首の形だとか、顔の角度が同じだ。
野々宮くんは学校がお休みの日にだけ、ああやって女の人の格好をするそうだ。
普段の野々宮くんからは想像もつかない。背はそんなに高いわけではないけど、低いわけでもなく、どこにでもいる普通の男の子なのに。
喉仏や首筋なんかも固そうで、肩幅もそれなりにある。どこをどう見ても男の子だ。だけど、この前の野々宮くんは、どう見ても女の子だった。変身ぶりに感動すら覚える。
「どう見ても……男だろ、あれ。わかんねえとか節穴じゃん」
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