第9話
「わ、わからないですよ……きれいなお姉さんとしか、思わなかったです……」
あの日の野々宮くんは性別を超越していた。なんかもう、男女というカテゴライズすらどうでもいいというか、そんなものは最初からなかったのではと思うほど。
あまりいろいろ言うと気持ち悪いだろうから、わたしはまた愛想笑いを浮かべておいた。
野々宮くんはわたしを見下ろし、なにニヤけてんの、と怪訝な顔をした。
*
放課後、教室を出ようとしたら、野々宮くんが声をかけてきた。下校も一緒らしい。
ひとりで電車に乗らずにすむのは、とてもありがたい。だけど、野々宮くんは面倒ではないのだろうか。わたしの隣を歩くのは恥ずかしくないだろうか。
あと今日は本屋に寄りたいから、お断りしようとしたら、ついてきた。
本屋に入ると、すぐ目の前に雑誌が積み上がっていた。どうやら今日発売されたばかりのようだ。
表紙のモデルさんは、黒髪で肌が白く、だれにも媚びないような凛とした雰囲気があった。ちょっと野々宮くんと似ていると思った。そう伝えると野々宮くんの目にぱっと光が灯る。
「そう。このモデルのメイクとか好きで、参考にしてんの。かわいさもあって、上品さもあってさ。YouTubeもすっげえ参考になるし」
楽しそうな野々宮くんを初めて見た。いつも静かに笑っているイメージだし、わたしへの態度に至ってはトゲトゲしているから、面食らった。
意外と悪い人でもないのかな。それとも今日はたまたま機嫌がいいのか。
それからというもの、野々宮くんとは毎日登下校を共にした。
ふたりで登下校を始めて四日目のことだ。野々宮くんはわたしが使っている駅のふたつ前から乗っていることと、わざわざ降りて駅の入口で待っていることを知った。
さすがに申し訳ないので、翌日からはホームで待ってもらうことにした。
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